WEB連載

帰ってきた「閑話ケア」……ときどき「講演旅行記」

第5回 講演旅行記-静岡県静岡市・「地域保健」編集部(通算 第134回)

コロナ騒動が一段落したら、講演依頼が急に復活した。前に紹介した7月の山形市、十日町市を皮切りに、これを書いている時点で7月から来年2月までの8か月の間に、13の講演予定が入っている。昨年度は1年で2回である。その前年度は、どうやら1回しかなかったようだ。
コロナ前は年20回以上なんていう年もあったので、ここ数年すっかり世の中から忘れ去られてしまったような気になっていたのだが、本誌が休刊になったにも関わらず、依頼が復活してきているのは、ありがたい話ではあるが不思議な気もする。


さて、静岡県静岡市。今年の6月中旬に掛川市のH保健師からお問い合わせを頂いた。内容は、
「全国保健師長会の静岡県支部で役員をしています。その会の講演会です。地域保健で先生のファンになった保健師が多く、少し年配の集まりになりますが、それぞれに悩みも多いので、ぜひお話しをお願いしたいと思っています」
と。更に可能であれば1月と連続2回でお願いしたいと。
いきなり2回分の依頼だ。1回目は静岡市で開催。この時点では2回目の会場は未定。静岡は広いから、別の地域で―という事のようだ。1回目については懇親会も開催、そのため宿泊と決まった。
宿泊を伴う講演! 随分、久しぶりな話だ。調べてみたら2019年3月の岩手県岩泉町以来4年半ぶりだった!
静岡市は、昔、仕事の関係で市内の国立病院を訪ねた事があるが、その時、観光はしていなかった。徳川家康ゆかりの城跡があって、タクシーでその横あたりを通った時に、広く工事用の資材などで囲われていた程度の記憶しかない。
今は「駿府城(すんぷじょう)公園」として整備され、復元された櫓(やぐら)などがあるようだ。
というわけで、日曜日に講演し、宿泊。翌日の訪問先は駿府城公園と決定。他に、弥生時代の遺跡「登呂遺跡」も行けそうな範囲だ。
ところが、往復の新幹線の予約をしてから重大な事に気づいた。
公園の有料部分も登呂遺跡も月曜休館だったのだ…。
日曜はゆっくり行って、講演して、懇親会で歓談して、翌日観光して帰るつもりが、全面的に見直しを迫られた。
講演は14時から。こうなったら午前中に静岡入りして、講演会場からは遠くない駿府城公園に立ち寄ってから講演に行くしかない。登呂遺跡は没と決まった。


10月22日、8時前に家を出て東京駅に向かう。こだま713号で10:47静岡着。そこからまず、宿泊先のホテルに荷物を預け、スマホの地図を頼りに歩いて駿府城に向かう。
城の少し手前で、妙なものを発見。

プラモデルですよね、どう見ても。「徳川家康公出陣キット」と書いてある。そういえば、以前テレビで紹介されていたような気がして調べると、全国に出荷されるプラモデルのおよそ8割を静岡市で生産している事をアピールするため、「静岡市プラモデル化計画」というのをやっているのだそうだ。
目の付け所が面白いと思った。街中に、こういった物がいくつもあるらしい。
それにしても、暑い。10月後半なのに、もう上着は着ていられない。風もなく、お堀の景色はこんな感じ。

少し進むと静岡市歴史博物館があるが、時間の関係と、山形、十日町に続いてまた博物館になっちゃうのもどうかと思ってパスし、公園の入り口に近づく。

駿府城二ノ丸東御門巽櫓(にのまるひがしごもんたつみやぐら)。復元されたものの一つだ。
「たつみ」というのは南東の方向の事で、「やぐら」というのはそもそもは「矢倉」。つまり武器庫であって、ここに武器、城を守る係が常駐して、敵が来た場合の最前線となる所だ。内部を見学できるみたいだが、まずは公園全体を見よう。

さっき見た巽櫓とつながっている東御門。ここをくぐって園内に入る。いかにもお城って感じだが、左後方には近代的なビルが写っていて、ちょっと不思議な感じでもある。
中に入ると、平らな、広い公園。

そして、「本丸堀」の一部の遺構。

本丸というのは城の中心部で、お殿様やその家族の住居でもあり政務の中心でもあった場所。それを取り囲んでいたお堀っていう事だ。
公園内には「紅葉山庭園(もみじやまていえん)」という一角もあって、櫓や庭園の入場にはお金がかかるが、3施設共通券が360円。安い。 庭園の中はこんな感じ

築山のてっぺんからおそらく時間で自動散水しているのを見かけた。写真で見えるかな。ちょっとかわいい。

そして、全体のほぼ中央に、「徳川家康公之像」。

家康公の後ろは、広く囲われているが、中に入って見学できるようになっている。

天守台の跡地の発掘現場なのだ。天守台というのは、いわゆる「天守閣」の土台部分。次々に新しい発見があるらしくて、城マニアならばここを眺めるだけで、半日以上が過ぎるだろう。
次に、南西の方角に復元された「坤櫓櫓(ひつじさるやぐら)」。

中にはこんな展示も。

ところで、最初に見た「巽櫓」の名前と今回の「坤櫓」。
「ネ・ウシ・トラ・ウ・タツ・ウマ・ヒツジサル・トリ・イヌ・イ」
の一部だって気づきましたか? 「ネ」が北なのね。「ウ」が東、「ウマ」が南、「トリ」が西の事なんです。「閑話ケア」の正月の干支の話の時にもほぼ毎回説明しているけどね。
昔の工法で平成26年に復元されたらしい。構造が見られる展示だが、マニアックになるので省略。
最後に「巽櫓」にも入って見学終了。

巽櫓内部に展示されていたこの青銅製の「鯱(しゃちほこ)」は、二ノ丸堀から発見されたもので、家康公がいらした頃から東御門にあった物だそうだ。400年も前って事だ。よく残っていたものだ。


街中に戻って昼食を済ませ、歩行者天国の賑わいの中を通り過ぎて会場の「静岡県男女共同参画センターあざれあ」に向かう。

会場はこんな感じ。全国保健師長会静岡県支部研修会という事で、テーマは「自分の健康づくり」。
このお題を頂いた時、正直、「え~!」って感じだった。だって、健康の専門家の保健師相手に、こんな不健康な私が何を喋る事が出来ようか…。でしょ、どう考えても(;^_^A
ま、何とかとりつくろって喋って、無事終了したけれど。
1月にまた呼ばれる予定になってはいるが、今回の話を聴いて、「もういいです」って断られるかもしれない。
終了後、「お抹茶こんどうの食堂」で、10人の方と懇親会。

お茶のプロのご亭主がやっているお店で料理は静岡産の素材が中心だった。
面白かったのが生ビールへのひと工夫。

生ビールに抹茶をそっと注いでいるのだ。
奇麗な層になっている。ほうじ茶バージョンもあった。

もちろん普通の生ビールもあるけど。
温かいほうじ茶は、余裕がある時はその場で焙じてくれるとの事で頼んだ方がいた。

店内に素敵な香りが広がった。
コースターにはご亭主の似顔絵。よく似ていた。

懇親会費の会計後になって抹茶アイスを個々に注文。皆さん消費税込みの小銭を全員が持っていてジャラジャラジャラッと小銭で精算し終了。ちょっと面白かった。


翌日はバスも利用して、静岡浅間神社(しずおかせんげんじんじゃ)に。
でも、「浅間(せんげん)神社」という神社はなく、3つの神社の集合体であった。

神部神社 (かんべじんじゃ)と浅間神社 (あさまじんじゃ)の入り口と楼門。

ただ、この奥の本殿は改修中だった。
大歳御祖神社 (おおとしみおやじんじゃ)

面白かったのは、大河ドラマとタイアップしていて境内に「どうする家康 静岡 大河ドラマ館」なるものがあった事。中も見学し、ドラマの衣装や小道具などの展示や主演俳優の等身大パネルとの記念写真が撮れる所もあったが、紹介は省略。記念写真は撮らなかったのかって? 係の人に勧められたが、どうも、そういうのはねぇ。


10月22日に静岡で喋って、翌週29日が、次の舞台。何故かこうやって集中する事が多く、依頼された時に引き受けるヤツが、もうちょっと調整すればいいのにって、いつも思う。
無能なマネージャーである。私自身だけど(+_+) 11月にも10日・13日・17日と続いたし、1月も、愛知県に行く翌週は静岡県だ…。
で、29日。次の舞台は「地域保健」編集部主催の「藤本裕明さんのハイブリッド講演会『支援職のメンタルヘルス』」。目の前に人がいないと喋りにくい私にはオンラインの配信での講演なんて無理。ずっとそう言ってきたのだが、編集部のMさんが、
「それなら、会場にも来てもらって、ハイブリッドでやりましょうよ」 とおっしゃる。う~ん、それなら、何とかできるかなぁーというわけで、実現したのがこの日であった。
会場の「東京法規出版」の本社ビルは文京区。私の住む所から普通に行くには東武東上線で池袋、そこから山手線で2駅の巣鴨で降りて歩く。巣鴨駅は豊島区にあり、さらに地下鉄で一駅の千石が出版社の最寄り駅ではあるのだが、都内の鉄道というのは歩ける範囲にいくつも駅があるので、私はこのコースなら巣鴨から歩く。
ただ、巣鴨に行く時には急ぎでもない限り上記のコースは使わず、都電を使う。いわゆるチンチン電車だ。東上線に相互乗り入れしている地下鉄有楽町線東池袋駅で降りて、東池袋四丁目という都電の駅から4駅「庚申塚(こうしんづか)」駅で降りる。

良いでしょ、こういう電車。これは下車駅の庚申塚で、私が乗ってきた電車を写したもの。実はこのすぐ左にはホームにくっついた和菓子屋さんがあって、そんなのは、普通の駅じゃあり得ない。
反対側には、また違ったデザインの電車。

いろいろなタイプが走っている。この電車の手前の踏切を右方向に渡って進むと、巣鴨駅方面になる。

「巣鴨地蔵通商店街」と書いてあるでしょ。ここを進むわけだ。地蔵通り。聞いたことありませんか?
「おばあちゃんの原宿」なんて別名もある。「とげぬき地蔵」というお地蔵さんで有名な場所。道としては「旧中山道」。日本橋を旅立った人が最初の宿場「板橋宿」に入る手前っていう位置だ。
いろいろ面白いお店があったりする中を進むといよいよ「とげぬき地蔵」の表示。

「とげぬき地蔵」が有名だが、本当は「高岩寺」というお寺。

門を入って左の方に、通称「洗い観音」様がいらっしゃるわけだ。

このように、自分の痛い所、悪い所を拭くというか清めるというか、そうすると良くなるというありがたい観音様なのだ。だから、いつでも行列が出来ている。

参拝者のお顔を写さないようにごく一部を撮ったので、そんなに多くは見えないが、それでも、ざっと40人以上が並んでいて、次々に新しく加わる方々がいた。高齢者が多いが、若者も案外多かった。私は並ばなかったのかって? もはや、悪い所だらけなので手遅れとあきらめている。
お寺の本体はこんな感じ。左側に観音様がいらっしゃるが、その賑わいに比べると、寂しい。

「観音様? あれ、お地蔵様じゃないの?」
と、気づいた人、いるかな。「とげぬき地蔵」なんだけどね、お地蔵さまご本人は「秘仏」だから非公開なんです。
地蔵通りを巣鴨の駅側に抜けて振り返った景色。言うなればこっちが表かな。

その横にはまた大きな地蔵を祭ったお寺があるのだが、こっちはいつ見ても参拝者が少ない。でも、昔は巣鴨のお地蔵さまと言えば、こっちの事だったらしい。

お寺の前を通り過ぎると、右側に最中(もなか)のお店。

私の祖父母は巣鴨の隣の大塚に住んでいたのだが、大塚にもこのお店があって、祖父母の所に行くといつもこの最中があった。おそらく60年近く前の幼い記憶の中に登場するほど、私にとっては懐かしい最中だ。
で、最中を買って、巣鴨駅前を通過して、

本社ビルに行く。ビルの写真は撮り忘れた。編集部の方で用意出来たらお願いしますm(__)m

(撮影しておきました:編集部)

この周辺には、「藤本さんの講演旅行記『保健師のための閑話ケア』web版【番外編】自転車日記」の後半に写真入りで紹介した六義園(りくぎえん)などもある。
4階の会議室では編集部のMさんと、編集部長のMuさんが準備中。でも、その他は日曜日なので全体が静か。
時間になって会場参加者がおいでになるが、合計で6人。
たった6人の前で喋るのは初めてかもしれない。
6人と600人だったら、どっちが大変だと思いますか? 6人の方が緊張しないって思う方が多いと思うが、6人の方が、実は、はるかにやりにくいのだ。つまらない話をしても600人もいれば全員が寝る事はまずないが(全員を寝かせたらそれは別の意味でスゴイ)、6人中3人にでも寝られてしまっては、目も当てられない。ダイレクトに反応が見える分、気が抜けないのだ。
配信でご覧になっている方が数十人は居るらしくてPCの画面上に何人かのお顔も見える。だから、その方々もここに居るんだなって想像しながら喋る事にした。
休憩の時には会場参加者と一緒に、買ってきた最中を食べる。

休憩後にはいつもならば白紙に書いてもらった質問を読み上げてお返事する。会場参加者については今回もそうしたが、オンラインの皆さんからはチャット機能?で画面上に質問が出てきてそれを読み上げてお返事という形。何人かの方とはオンライン上でもいろいろお話が出来て、それはそれで楽しかった。
以前、講演に呼んで下さった懐かしい方々、メールだけではやり取りをした事がある方などもいらしたし、時間終了後も数人の方々の中で話が盛り上がり、なかなか面白い体験だった。
そして、いつものように懇親会をして、終了。
会場参加者に配られたのがこちら。

「講演記念ブック」というものを用意して下さった。もう一度読みたい投票の上位の物をまとめて下さった本。少数だけ非売品として作られたようだが、お金を出しても欲しいと言ってくださる方もいらしたらしい。
講演そのもののアーカイブ配信、つまり、録画の配信も、結構な人数の方が申し込まれたらしい。知人の保健師からも、それを見たという連絡が後日あった。
私自身、今まで自分の講演を見た事がなかったが、Mさんが見られるようにしてくれたので、恐る恐る初めて見た。前半の講演部分は面白くもなんともなかったが、後半の質疑応答は、なかなか面白かった。これは私の技量ではなく質問者あっての事。あらためてそれを確認した次第。 講演旅行の日々は、年明けに続く。

著者
藤本裕明(ふじもと・ひろあき)
分類学上は霊長目ヒト科の♂。立場上は一応、心理カウンセラーに属する。自分の所の他、埼玉県川越市の岸病院・さいたま市の小原クリニックなどで40年以上の臨床経験があるが、年数だけで蓄積はおそらく無い。
秋の講演が一段落して、静かな12月を迎える。11月に3回じゃなくて12月に1回くらい移動できなかったのだろうか。保健師の現状をマネして、私の講演も分散配置にしたいが、どうしてもお声がかかると、ついつい「ハイ!」って言ってしまう。ま、仕方ないか…
あさか台相談室 ホームページはこちら

帰ってきた「閑話ケア」……ときどき「講演旅行記」 一覧へ

ページトップへ