WEB連載

フランスの親子まるごと支援

第0回フランスの性教育と若者支援──セクソロジストという仕事

春から地域保健WEBで「フランスの親子まるごと支援」を連載することが決まった。読者の多くは保健師の方ということもあり、連載開始の前にぜひ読者の皆さんに知ってほしいことを第0 回として準備号を用意したのでお読みいただきたい。
セクソロジストとは性に関する専門資格のひとつで、フランスでは看護師、助産師、心理士などがこの資格を取り、性に関するトラブルのケアや予防を担っている。読者の関心が高い性教育や若者の支援について現場のセクソロジストの言葉もあわせてお伝えする。

居場所だけではない積極的なソーシャルワークの場

まずはじめに、フランスの若者たちが悩みを相談できる場所である性的健康センターとティーンエイジャーの家について紹介したい。

性的健康センター

性的健康センターはパリ市では26か所にあり、妊娠中絶を実施する機関にも設置が義務づけられている。東京でいう渋谷センター街のように若者が通いやすい場所にも設置されており、匿名・無料で利用できる。
13歳を対象とした学校での性教育は「愛と性のある人生についての教育」という名称だ。性的健康センターから後述するパートナー間アドバイザーが派遣され、若者たちにとって「人間関係も恋愛も性も、人生にとってとても大事なもの。だからこそ専門職に相談する」と知る機会になる。パリ県(パリは市でもあり県でもある。予防や健康の実施主体は県となっている)が中高生にこの授業で何を学びたいかアンケートを取ったところ、一番多かったのが「恋愛や関係性について話したい」という回答だった。性教育では知識の伝達は目的とせず、子どもたちが話したいことについて話す。自分が授業で話したことのあるパートナー間アドバイザーに会える場所を知っていることで、若者たちがそこに話しに行きやすい工夫をしている。
性教育をすることができる資格はいくつがあるが、その一つがこのパートナー間アドバイザーという資格で、看護師や助産師などの資格を得た上で養成課程を経て取得するものだ。パリ市中心部にある性的健康センターに所属する専門職を例に見ると、フルタイムではない人も含むが、婦人科医16人、心理士2人、セクソロジスト2人、皮膚科医3人、パートナー間アドバイザー2人、ソーシャルワーカー1人、看護師6人、助産師2人となっている。心理士は眠りやトラウマなどの相談、ソーシャルワーカーは保険証がない人の手続きや住居探しなどを行っている。こうしたことからも、いかに性をきっかけに心配な人をケアの機会につなげているかが見てとれる。また、ここでは13種類もの避妊法を無料で提供したり、薬による中絶を受けられたりもする。全て無料で利用できるが、それは「無料でなければ権利がないのと同じ」とフランスではみなされているからである。訪れた人に対して一度の面談でリスクを割り出し、リスクがある場合はそのまま帰さず、話を聞いた人自身がその専門でなくても受け止め最初の対応を一緒に行う。性的健康センターを訪れた人へのチェックリスト(性的健康チェック)は筆者のホームページで日本語に訳したものを載せているので是非ダウンロードし、日本でも利用者に合わせて工夫して使ってほしい。

ティーンエイジャーの家

ティーンエイジャーの家は現在日本で「ユースセンター」などの名称で広がりを見せつつある(例:あまがさきユース保健室)が、フランスの場合はもっと心理面に力を入れている。パリ市にはティーンエイジャーの家は2か所あり、児童精神科医、小児科医、心理士、ソーシャルワーカーや児童保護の中心的な役割を担う国家資格であるエデュケーターが勤務する。若者たちは学校の看護師や心理士などに紹介されてやって来る。親の了解を必要とせず無料で利用でき、若者自身が選びとれる福祉メニューが複数あることが重要とされている。「自分の体が好きになれない」「気分が晴れない」など、そんなときに予約なしで心理士と話しに来ることができる場所だ。また、中には学校で友人にちょっかいを出して先生に注意され、ここに通ってケアを受けないと次は停学処分などと警告を受けて来る若者もいる。
若者たちは自分では気持ちを表現できないことがよくあるため、以下のようなツールが使われることもある(図1)。

若者によっては深夜にSNSメッセンジャーなどで長文を送り、次に来所したときにその内容について専門職と話すようなやりとりを好むこともあるという。SNSメッセンジャーのようなツールを若者が選択できるようにしていても、職員は勤務時間外に返事をすることはせず、出勤している時間に対応する。日本ではすぐに返事が来るようなチャット相談でないと若者にとってハードルが高いと思われがちだが、フランスの調査においては性的健康センターもティーンエイジャーの家も、コロナの時期にチャット相談などをPRしてみたものの、結局若者たちは知っている人に顔を見て話すことを好むという結果になったという。
来所した若者の調子が良くなっていくと親も来所するようになる。親のケアの方が若者たちより面談回数が多く必要なことはよくあることだと心理士たちは笑う。とはいえ、親の調子が良くならないといずれまた若者の調子が崩れることはよくあるのでしっかり親のケアも行っている。親が幸せだと子どもは調子が悪くなりにくいのだ。

(写真:セーヌ・サン・ドニ県がショッピングセンター内で運営する若者向けの情報提供窓口の様子。表には「テット・ア・テット(顔を合わせて)」という名称の看板がある。入口に卓球台や毎月変わる展示物があり、快活なスタッフが若者に「学校はどう?」「友達とは?」「家は?」と声をかけていく。話したそうにしている若者には個室で話を聞き、必要であればティーンエイジャーの家や性的健康センターなどの専門機関につないでいく。)

性的健康の予防とケアを担うセクソロジスト

フランスでは2007年より未成年の顔色が悪い、無口であることなど「心配」と感じた時点で全ての市民が専門機関につなぐ対応をすることが義務づけられ、特に専門職には「心配」なサインを見落とさず、子どものウェルビーイングを守ることが求められている。
性的健康分野において専門職への研修の講師をつとめたり、性的に傷ついた若者のケアを担ったりするのはセクソロジストだ。セクソロジストは性に関する専門資格で、医師・看護師・助産師・心理士などが大学に通い資格を取得する。フランスでは2002年に売春に関わる未成年を被害者と規定、2016年に売春をする成人も被害者で保護の対象とみなし売春の状況にある人へのサポートを規定、客が罰金の対象となった。2021年に未成年売春被害対策を策定し、各県に専門の相談機関を設置する予算を確保したことでで、児童保護分野におけるセクソロジストの活動に特に注目が集まった。セクソロジストがどんな思いを持って子どもたちに向き合っているか、パリ市の性的健康センター、未成年売春被害専門ケア団体でセクソロジストとして活動するクロード・ジオルダネラさんから伺った話を紹介したい。

セクソロジストの語った言葉から(聞き手・訳:安發明子)

クロードさんが売春被害によりケアの必要がある若者たちに日々接している中で大切に思っているのはどんなことですか?

NOと言えるようになる教育です。大切なのは、2-3歳からの同意に関する練習です。人はNOと言えるとき、初めて自分にとってのYesが分かり伝えられるようになります。たとえ好かれなくても、嫌われてもいいから、その子がNoと言えるよう育てることです。日常や教育の中でも選択肢があり、NOと言える環境があることが大事です。「調子が悪い」「うまくいかない」と子どもが言ったとき、聞いてもらえることやその環境は最低限必要なことです。

性的な相談に答えるだけが性的健康センターの役割ではないのですね。

はい。未成年や若者の妊娠については一緒に考える過程が重要です。周りの人に自分をケアしてほしいがために妊娠しているということもあるからです。

未成年の売春被害者である若者たちはどんな問題を抱えていることが多いのですか。

売春被害にあっている未成年はトラウマ経験があります。ほとんどが幼いときに性暴力を受けて性的健康が傷つき、その解決方法として売春をしていることが多いです。また、性生活のはじめにパートナーとの間で性暴力を経験していたということもあります。性暴力を受けた人はトラウマを抱えて成長することになります。そうした環境では性的な発達も阻害され、本来あるべき感覚が失われていきます。苦しみと繰り返し思い出されるトラウマにさらされることで、自分の体の価値を自分で手放すような結果になったり、自分の体について自分でコントロールするのを徐々に諦めてしまうようなことになったりします。このように被害者が繊細で弱い状況にあるのを、利用しようとする人たちはめざとく見つけ出します。被害者は自分自身には価値がないと思い込んでいる人が多いので、近づいてきた相手が自分の何に価値を見出しているのか判断ができにくくなっていて、自分のことを大切にしてくれる男性と利用しようとする男性の判別が難しくなります。被害者たちはあまりに傷ついて弱っているために、自分がいま何を欲しているかが分からなくなっていて、同意について正しい判断ができない状況なんです。

売春被害者は女性が多いのでしょうか?

3割が男性で7割が女性です。性的健康が傷ついている状況に至る理由は男性も女性も同じ理由によるものが多いですが、男性の場合は特に子ども時代に性暴力を受けていることが多いです。被害者たちは、過去に被害を受けたときと同じ状況に身を置くこと──つまり性活動すること、さらに、お金や物を性への報酬として受け取ることで苦しみを和らげようとしています。つらい経験をした気持ちに鍵をかけたまま、その経験を抱えて生きなければならない人がいます。とても強いレジリエンスの持ち主は、自分でその状況から抜け出すことができますが、性被害経験者の中でそのようなことができるのはごく一部の人です。大半はリスク行動または「緩和テクニック」といわれる方法をとります。これは何らかの依存や、売春や、暴力などを指しますが、この悪循環から出ることができるのは、トラウマがケアされたときです。

どんな子どもたちがトラウマを抱えやすいか、傾向がありますか?

社会的養護のサポートを受けている子どもはトラウマになるような経験をしていることが多いです。それは自分が「無価値だ」と感じるような経験です。そうした背景を持つ人にとっては、性行為の中での「上手」「いいね」「最高」という褒め言葉はとても価値のあるものになるのです。他のことではそれだけ自分に価値を感じられないということの現れでもあります。「最悪ではない選択」ではあっても、積極的に望んだ選択ではないのです。

トラウマから抜け出せる子、抜け出せない子の違いは何かありますか。

傷ついた若者たちはここでケアを受けるのは義務ではないので、私たちの仕事は、その若者たちに会うたった一回で、いかに彼らをつかまえるかにかかっています。ケアをする義務は被害者である若者たちではなく、大人の側にあります。大抵は、一度来所した人はまた戻ってきます。時間があくことがあっても話しにきます。無理に揺さぶらないで絆を築いておくと、また来てくれるのです。
被害を否定している人が被害を認識するためには、自分にとっての性的な欲望がどのようなものなのか、あらためて自覚してもらうという方法をとっています。例えば自分自身が望むときは、どのようなサインを体の中に感じているのか、ということについて話すのです。そうすると、あれは自分が望んでいることじゃなかった、実は自分は耐えていたんだと自覚するような段階に進むことができます。

フランスでは未成年の売春は全て被害者として捉えるそうですが、いつ頃からでしょうか。

2016年の法改正はモード・オリヴィエ議員が進めたもので、売春の斡旋組織のネットワークを断ち切ることを目的として達成されました。これにより客も斡旋組織も非常に厳しい罰が下ることになりました(図2)。

小児性愛のポルノは子ども全員の性的精神健康の発達に非常に影響があることが分かっており、目撃する機会や可能性があるだけでも小児性愛を社会として許容することにもなってしまいますので規制しなければなりません。そのためには未成年に関する売春斡旋が厳罰化される必要があるというわけです。セクシーな写真を撮影させることも売春であり、必ずしもセクシーなポーズでなくても自慰行為を目的としている可能性がある撮影は売春です。売春は人身売買です。
我々は「人の体を買わない」という社会であるよう推し進めています。それは男女の平等でもあります。売春に不均衡があるというのは、片方がお金を払うからです。お金を払えば相手は望まないことにも応じてくれるというのは同意の原則にも反します。子どもが平等の感覚を身につけて育つというのは非常に大事です。人を魅了してもいいし、話してもいいし、遊んでもいいけど、でも、他人の体を買ってはいけないのです。そして人間関係は常にお互いの合意の上に成り立つといったことを子どもが知って育つためにも必要なことです。
当事者でも第三者でも、売春を職業だと言う人がいると、他に仕事がなく積極的な選択でなくても、職業だと言わざるを得ない人が出てきてしまいます。フランスでは長年売春を職業と公言していた人が後年「なぜ私の言っていることを信じたの? 私はしがらみの中でそう言わざるを得ない状況だったのに」と発言したことも、売春をする人を被害者であり保護の対象とするという認識を後押ししました。
売春をしている90%もの人が、自分自身が望んでこの仕事をしているわけではないこと、また、ほぼその全員がトラウマとなるような経験をしていることが分かっているということも広く認識されるよう主張を続けています。


売春客の98%が男性であることも分かっている。国立調査機関によると、売春の状況にある人全員が売春の状況に入る前に性的強要を経験しており、6割は子ども時代に虐待を、64%が未成年のときに性暴力を経験している。半数は過去1年以内に暴力の被害に遭っており、4割は強姦の被害に遭ったことがある(一般では6.8%)。3割は過去1年以内に自殺願望があった(一般では女性の4%)。65%は過去1年間でうつ症状を経験しており、66%は一週間以内に不眠など睡眠の問題を経験している。67%は現在トラウマ症状がある。多くが小さなときからの暴力を経験し、性ビジネスの中でさらに暴力リスクにさらされていることが分かる(1)。また、連帯保健省の社会問題観察機関の報告書には消化器疾患、皮膚疾患、摂食障害などストレスから複数の疾患を抱えていることが多く、「脱身体化(décorporalisation)」という、暴力や、度重なる望まない性交から自らを守る防衛反応として、自身の身体の状態や健康に神経を向けない状況がみられるとしている(2)。暴力によって売春の状況に身を置くことになり、さらに暴力の経験を重ねていることが分かる。

クロードさんが話す内容は、日本でも暴力にさらされ性的健康が傷ついた若者を支援する専門職の方は共感できる点が多いのではないだろうか。2024年4月22日(月)19時から、クロードさんに会って話せるオンライン勉強会を開く事になった。ぜひこの連載第0回をお読みになった感想や質問などをお寄せいただきたい。フランス語・日本語の逐次通訳は筆者が引き受けるのでフランス語が分からない方にもぜひ参加してほしい。

  1. L’observatoire national des violences faites aux femmes, 2015, Prostitution en France.
  2. IGAS, 2012, Prostitutions : les enjeux sanitaires.
日本語版「暴力定規」も公開中!

暴力定規(日本語・地域保健版)

「暴力定規」(日本語・地域保健版)について詳しくはこちら

 

著者
安發明子(あわ・あきこ)フランス子ども家庭福祉研究者
1981年鹿児島生まれ。2005年一橋大学社会学部卒、 首都圏で生活保護ワーカーとして働いた後2011年渡仏。2018年フランス国立社会科学高等研究院健康社会政策学修士、2019年フランス国立社会科学高等研究院社会学修士。フランスの子ども家庭福祉分野の調査をしながら日本へ発信を続けている。全ての子どもたちが幸せな子ども時代を過ごし、チャンスがある社会を目指して活動中。

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