保健師のビタミン

風雪人生

第10話「花信(かしん)」~向日葵のような人でありたい

ついに風雪人生も最終回を迎えました。毎回、タイトルにはこだわりを持ち、内容もさることながらタイトルにも、万感の想いをこめて考えておりますが、今回は最終回ということもあり、考えた末に、1番自分がこういう気持ちであることを、タイトルに持ってきました。

桜が恋しい季節に、書き始めてその間、仕事も忙しくまた、プライベートでも人生の大転換期を迎えたりして、桜をしみじみ見上げることも忘れていて、今日、ヒマワリが風に揺れていて、入道雲をみて、ああ夏休みなんだなあと、歳時記を実感しました。

「忙しい」とは「心を亡くす」と書くというのは、本当ですね。私のオフィスの近くに海があり、多くの海水浴客で賑わっている光景を、日傘を差しながら眺めていると、自分が小さい時に家族で海に来た思い出も、山で花や虫を見ることも全く無い、暗い少女時代だったなあと、幸せそうな子ども達を見ていると、「この子達には、大きくなっても今日のこの日の思い出が残るから、幸せだなあ」と思いました。

人は、大きくなっても小さい時の記憶が、大人社会の汚い部分を、きれいにしてくれたり、しみじみ思い出すことで、やさしい気持ちになれると思います。年齢は、夢の中でしか戻れないけれど、想い出は、泥棒にも盗まれないし、地震が来ても壊れない尊いものです。小さい時に、辛い思い出しかない私には、これからの人生が何年あるかわかりませんが「子どもの時のような楽しい"想い出"」を、いっぱい作りたいと思っています。

いい歳してと思われても、虫捕りや蛍狩り(捕まえないで見てるだけ)や、素足で浜辺で水しぶきを浴びたりしたいです。人生の帳尻は、少しずつですが合ってきたかなと最近思います。この歳になっても、同じ楽しみを嫌だと思わずにつきあってくださる方が傍にいるからです。いくら、きれいな貝殻を拾っても同じ感動を共有できない人生は淋しいです。

今、ひとり暮らしの高齢者や孤独な若者が増えていますが、お金が無い事や体が弱る事も勿論心配で不安でしょうが、日常の小さな出来事で「買い物に行ったら、美味しそうなスイカが売ってた」とか、「歩いていたら虹を見た」とか、ささやかなことで構わないから、「そうか、そうか」と聴いてくれる人の存在はどんなにか心強く、生きていく上で支えになることでしょう。

合いの手を入れてくれる人がいて、自分が倒れてしまいそうな時に支えてくれる人がいるかどうかで、人生の帳尻は合うのではないかと、最近気付きました。

花信とは、万葉の昔から春を待ち焦がれる言葉として使われてきました。自然は、嘘をつかないから冬の終わりを早々と切り上げたいような、表現になるのでしょう。ロシアでは、まだ気温が低い春先、日脚が延びて空が少し明るくなり、屋根の雪が水滴となって落ちる最初の一滴を「光の春」と呼んで、小さな喜びを感じるそうです。人生も同じです。寒さが厳しい人生を歩いてきた人ほど、小さな春が嬉しいのです。

自分の、不運な人生を幸せだと思える日がいつかきっときます。そして、自分もまた、人に幸せを運べる向日葵のような人でありたい。そう思います。

読者の皆さんや編集部の皆さんに、支えて頂き最終回を迎えることができました。私は今、「とても幸せです!」つたない文章を、毎回楽しみにしてくださった方々に、健康とご多幸が訪れますように。私は、48歳にして、初めて自然も人も信じてみようと思っています。人生の帳尻が、合ったのでしょう・・・

~今日の花華綴り~
「ありがとう・・・精一杯のありがとうございました」

著者
柴田花華
チャイルドケアコンサルタント。
モンテッソーリ幼児教育指導者、医療心理科講師を経て民生委員、児童委員民連会、教育委員会、青少年育成委員会等で講演家や大阪医療技術学園専門学校ー児童福祉学科講師として活躍中。
障害児の母親を心理的に支える「赤い口紅運動」を主宰。新聞・ラジオなどのメディアで多数取り上げられる。日本禁煙医師歯科医師連盟会員。2003年5月5日の子どもの日にオフィスあんふぁんすを設立。同時に「赤い口紅運動」開始。

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