保健師のビタミン

家庭基盤と絆

第5話遊びこそ学び

人格形成上で最も重要な基礎となり、幼児期の活動の中で一番大切なことなのに一番忘れられているのが「遊び」ということではないでしょうか?

「遊」という字を分解すると、子どもを良い方向へ導くと考えられます。「子どもは風の子、元気な子」と言われていた時代はどこに行ってしまったのでしょう。街から子どもが遊ぶ姿がすっかり消えてしまいました。その背景には習い事や塾で忙しく、遊ぶ時間が十分にとれないという実態があります。

某教育開発センターが、就学前の乳幼児がいる保護者を対象に実施した調査によると、習い事や通信教育をしている子どもは2000年には49.4%、05年には57.5%と8.1ポイントも増えたそうです。

ほとんどの母親は、「伸びるタイミングを逃したくないから」という理由だそうですが、私としては「お母さんたち!!ちょっと待って!!」と叫びたくなるのです。

スポーツクラブなどの月謝を払わなくとも、昔(それも遠い昔ではなく昭和)は遊びながらスポーツを覚え、基礎体力ができ、縦の関係も横のつながりも自然に身に付いたものです。

「遊び」について、もう少し分かりやすくまとめると以下の4つの側面が考えられます。

①身体的発達の側面
幼児の遊びは、身体的・肉体的発達を促進させる役割を果たしている。遊びを通しての身体活動は、呼吸・消化・循環器官の活動を活発化し、皮膚や内臓の機能を強化し運動機能を増進させるなど、身体各部を全体的かつ調和的に発達させる上で大きな働きをしている。

②知的発達の側面
乳幼児の思考は、具体的な経験を得ないと物事を理解することが難しい段階であり遊びを通して、思考力・創造力といった知能の基礎的能力を身に付けていくことができる。

③社会的発達の側面
子どもたちは、友達との遊びの中にけんかや葛藤やさまざまな出来事を通して、協力や忍耐すること、役割やルールを守ることなど貴重な体験を通して社会的な人間へと成長していくのである。

④心理的発達・解放の側面
現実の生活の中で現代の子どもは、大なり小なり緊張状態におかれている。しかし自由な遊びは、子どもをこのような緊張状態から解放し、心を開かせてくれる。

以上に述べた側面的な記述は、やや学説的で私流ではないが、私は子どもたちの持っている五感は自然を通して育まれるものだと考えます。

少なくとも昭和35年生まれの私の幼児期には、雨降りの日にはかたつむりがいました。川や田んぼにはザリガニやカエルがいて、生き物が常に自然の天候とともに自分の周囲にいました。

砂遊びも特別に大事な遊びです。太陽の光を浴びている表面の砂は白くサラサラ、少し掘ると黒く水分を帯び、その下には粘土があり、ジャリがあり、砂の中にも層があることを自然に発見していきます。そして土いじりで汚れた手を水が清めてくれて、風が乾かしてくれます。

幼児の心身の発達にとって、自然との触れ合いを欠くことができないことは、人間が自然の中で生まれ、自然の中で生きていく生き物である以上、当然のことと言えます。

また、文化の伝承という点でも、テレビゲームやパソコン画面相手の遊びではなく、たこあげ、コマ回し、お手玉、ケンケン跳び、缶けり…。昔は誰もがやった遊びですが、それは子ども達にとって宝物でもあり、国や地域独特の文化を醸成していました。

それに何度も敵を倒しては生き返るバーチャルリアリティが人命を軽視する思考につながるとも言えるでしょう。

「幼児は遊びの中で発達する」という命題こそが、大人が再認識すべき大切な論点ですが、交通事故や通り魔事件、誘拐など強悪(凶悪)な事件が多発する現代では、大切なことは分かっていても現実には難しいということも事実でしょう。

「遊んでばかりいないで勉強しなさい」と子どもに言っている親には「遊び」の持つ意義の深さを再考してもらいたいとつくづく思います。

~今日の花華綴り~
  「子どもに教えることは、すべて自然が教えてくれる」

著者
柴田花華
チャイルドケアコンサルタント。
モンテッソーリ幼児教育指導者、医療心理科講師を経て民生委員、児童委員民連会、教育委員会、青少年育成委員会等で講演家として活躍中。
障害児の母親を心理的に支える「赤い口紅運動」を主宰。新聞・ラジオなどのメディアで多数取り上げられる。日本禁煙医師歯科医師連盟会員。2003年5月5日の子どもの日にオフィスあんふぁんすを設立。同時に「赤い口紅運動」開始。

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