保健師のビタミン

家庭基盤と絆

第3話赤ちゃんの不思議な力

へその緒が切れたときから、産まれた赤ちゃんも一人の人間として個性を持って人生が始まるわけです。

「赤ちゃん」という呼び方は、何とも微笑ましい呼び方ですよね。
新生児とか乳児とか専門的な呼び方だと、可愛げがないというか親しみがないかもしれません。

今回は、産まれてから眠ってばかりの赤ちゃんにも不思議な能力が備わっているということを書きたいと思います。

ミルクや母乳を飲んでは眠りを繰り返している赤ちゃんですが、眠っている間にもいろいろなことを学び、発達しているのです。

特に脳内の耳のすぐ近くにある、言語野と呼ばれている場所の発達はすさまじいものがあり、眠っていても「快」と「不快」の音を聞き分け、お母さんやお父さんが愛情をもって呼びかける声を感じ取り、言語野に大きな影響を及ぼします。

大人が勝手に、眠っているから分からないだろうとか、赤ちゃんだから聞いていても分からないだろうと思い込んで、大声でケンカをしたり、せっかくの命の誕生を喜べないような言葉を発したりすると、赤ちゃんはきちんと自分にとって栄養となる言葉なのかどうかを聞き分けているのです。

私が障害児の母親の支援活動を始めるにあたり、自分がなるべく多くの知識を得ることや、お母さん方の想いを知りたいとの思いから、某大病院の新生児病室を拝見させていただいたことがあります。そのとき私にいろいろな説明をしてくださった師長さんの話で忘れられない話がありますので、ここでご紹介したいと思います。

私は消毒し清潔な特別な服に着替えて、生まれながらに難病と闘う赤ちゃん一人ひとりと対面しました。言葉もなくし、ただ「早く元気になってね」と願うしかない私の前に、細い細い管を鼻から入れてられて、赤ちゃんと呼ぶにはあまりにも紫色に近い顔色、息をしているのかどうかも分からず身動きひとつなく、新生児独特の原始反射も見られない状態の、小さな白いバスタオルにくるまった赤ちゃんに出会いました。

そのとき師長さんから
 「花華先生、この赤ちゃんは、生命維持装置で、やっと生きている状態です。もちろん私たちの呼びかけに反応しませんし、泣くこともありません。でも、この無反応な赤ちゃんが少し微笑むときが一日に一回だけあるんですよ。それは、お母さんが面会に来たときなんです。お母さんが赤ちゃんの名前を呼びかけたときだけ、かすかな反応を示すのが分かるんです。我々と母親の区別がきちんとついているんです。お母さんが来るのを待っているんです」という尊いお話を伺いました。

そのとき「命ってなんて偉大なんだろう!赤ちゃんの力ってなんてすばらしいのだろう!」と深い感動で胸がいっぱいになりました。

この世には、生まれてこなかった方が良かった命なんてないのです。どんな子にも役割があり、社会の宝として誕生しているのです。最近のテレビのニュースは暗い話題があまりにも多く、赤ちゃんの言語野に悪い影響があるのではないかと心配しています。

我々、大人社会は小さな命の大きな未来のために、赤ちゃんの心に栄養となる温かい言葉が行き交う社会でなければならないのではないかと思います。

赤ちゃんの不思議な力は、決してあなどれない大きな力なのです。

~今日の花華綴り~
  「言葉とは言霊であり、ひとつずつの言葉には魂が込められているのである」

著者
柴田花華
チャイルドケアコンサルタント。
モンテッソーリ幼児教育指導者、医療心理科講師を経て民生委員、児童委員民連会、教育委員会、青少年育成委員会等で講演家として活躍中。
障害児の母親を心理的に支える「赤い口紅運動」を主宰。新聞・ラジオなどのメディアで多数取り上げられる。日本禁煙医師歯科医師連盟会員。2003年5月5日の子どもの日にオフィスあんふぁんすを設立。同時に「赤い口紅運動」開始。

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