保健師のビタミン

百花繚乱

第6話秋桜(コスモス)

早いもので、多くの皆様に大切にお読みいただいた百花繚乱も、今回で最終回となりました。

毎回、テーマとなる花を何にしようかと一か月くらい考えますが、最終回を書くときには自分の一番好きな秋桜と決めていました。私が結婚するとき、式場に向かう車のラジオから流れていた曲でもあり、息子の通う学校の通学路に咲いていた花でもあり、決して華やかではないけれど夏から秋に向かうころ、しなやかに風に揺れる、やさしい姿が大好きです。縁起でもありませんが、私が死んだらお葬式のときは、秋桜でいっぱいにしてほしいと息子たちに言っているほどです。

これまで自分なりに精いっぱい頑張ってきて、いつか自分が死ぬなんて考えてもみませんでしたが、最近は、私より年齢の若い芸能人が亡くなったり、私の青春時代に友と口ずさんだ名曲を作った作詞家や作曲家が相次いで亡くなる報道に接するたびに、自分も最期を少し意識するようになり、(若いころという言葉が嫌いで使わなかったけれど、無理が利かなくなったり、白髪が増えたり、肉体的な衰えも伴い)つい先日、メガネを新調するために出かけたときも、いつもならパッパッパーと買ってしまうのに、「残された人生で、あと何回もメガネは買わないだろうから」と考え、時間をかけて選びました。これは初めての感覚であり経験です。野球でいうと、現在6回の表、いやもしかしたら裏あたりかなあと思います。四苦である「生老病死」の最終が近くなっているのだから、残された人生をどう生きるかを少し立ち止まって考えてみるのもいいのかもしれませんが、結局は花華流を変えることはできないのだろうと思います。

両親が早くに亡くなったために、寂しい思いも随分としましたし、親にも何もしてもらってないと、不足に考えていたときもありました。しかし今、私と同世代の方の中には、親御さんの看病で心身ともにクタクタになっておられる方も周囲にいらっしゃって、カラオケや外食の約束もままならない現実を抱えて暮らしておられる方々のご苦労(苦労と考えず、幸せと思っておられる方も、もちろんおられるでしょうが)を思うとき、今の私の体力で老親の看病や手厚い介護を文句も言わずにできるのは無理だと断言できます。母からも父からも何もしてもらってないけれど、一度も面倒をかけられていないなあと思うとき、両親の写真の前に、旬の果物や神戸の洋菓子をいそいそと心を込めてお供えしている自分がいます。

つい最近、あるきっかけで亡母が私を産んでくれるまでの母子手帳とへその緒が出てきました。セピア色に変わった母子手帳を開いたとき、若かりし日の母がどんな気持ちで健診に通い、どんな気持ちで分娩し、新生児の私の成長を記録していたのか、手に取るように伝わってきて、涙が頬を伝いました。母の姿は、この世になくても私のなかで生きていることを実感しました。こうして母から娘へ、そして私から息子たちへとつながっていくのですね。

そんな、ささやかな愛しい人生なのに、人間ですから、美しく生きられることばかりではなく、苦しみや憎しみや悲しみの出来事も、どうしても発生します。人を傷つけたくはないけれど、自分を見失ってしまうこともあります。逆転満塁ホームラン(グランドスラム)は絶対に無理でしょうが、自分の体調管理や肌や髪の手入れ等のメンテナンスをきちんとして、自分の行きたい場所に行き、食べてみたい食材を食べ、会ってみたい人(私の一番は生き別れになっている実弟)に会い、可能な限り残りの人生をなるべくなら争いのない、穏やかな笑顔に包まれた、やさしい日々を過ごしたいなと思います。時として、なるべくなら遭遇したくないような事が起きたとしても、決して自分らしさを失わずにいたいです。

これまで、拙い私の綴りをお読みいただいた皆様、本当にありがとうございました。お一人お一人に、それぞれの人生があり、いろんな波がおありでしょうが、どんなことも、きっと笑い話に変わると信じて、元気にご活躍ください。私も、いつまでも素敵な女性であり続けられるよう頑張ります。いつかまた再会できる、その日を信じて……。

花華拝

※秋桜の花言葉
 「乙女の真心」「美麗」「調和」「謙虚」

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著者
森岡花華
チャイルドケアコンサルタント。
旧姓・柴田花華。モンテッソーリ幼児教育指導者、医療心理科講師を経て民生委員、児童委員民連会、教育委員会、青少年育成委員会等で講演。
2003年から障害児の母親を心理的に支える「赤い口紅運動」を主宰、これまで約500人に口紅を贈呈。2014年、財団法人和歌山県福祉事業団より「赤い口紅運動」に対し表彰を受ける。夫が名張市の福慈会「夢眠クリニック」院長として単身赴任する中、白浜の別荘で愛猫リンと暮らす。紀南たばこ対策推進協議会評議員。

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