保健師のビタミン

コミュニティをつくる

第4話主体的に! と簡単に言うけれど

コミュニティレストラン「浅めし食堂」は地域の人たちに健康な食事を提供したり、交流の場を作る目的で平成15年から営業しています。

スタート時から一緒にがんばってきたメンバーがいます、そのひとりは現在店長となって責任ある仕事をするようになりました。

いきいき農園も順調で、食と農が地域の中で具体的に結びついてきまて、それについて視察研修を受けることも増えてきており、ただ自分の仕事をこなしていればいいというものではなくなってきました。

県内や近県の視察の他にも、首都圏の中学生の修学旅行、JAICAの研修、大学など様々です。事務局の私が対応することも多いのですが、みなさん現場の声を聞きたがります。スタッフへの質問もかなりあります。

最近は物見遊山的な視察研修はお断りしているので、どの団体も真剣です。そして、素朴な疑問というのは核心をつくようなするどい質問だったりします。「地域の人たちはどのようにかかわっていますか」「子どもたちに何をどのように伝えたいですか」など一言では答えられない質問ばかりです。

このような質問に答えながら、自分たちの仕事は食堂で料理を作ること、または畑で野菜を作ることだけではなく、何らかの使命を持っていることを実感していると思います。

さて、浅めし食堂は、原材料や光熱費の高騰、お弁当を配達していた大きな公共工事が終了したことなどで、昨年度は赤字になってしまいました。

経営状態が悪化したのは、それだけではありません。頼まれたことを、ただこなしていればいいというスタッフの姿勢が反映された結果でもあります。

このマイナスを機に店長さんは、いろいろ考え、売り上げを上げるのはもちろんだけど、もっと活き粋あさむしや浅めし食堂のことを知ってもらいたい、そのためにも日ごろからリクエストがある畑の体験と料理教室を開催しようと考えたのでした。

今までは、私から何かを提案して、やっていただくスタンスでの事業が多かったのですが、初めてスタッフから「食育教室をやりたい」と声があがったことに感激しました。

市役所の農業と食育の担当者は相談に乗ってくれて、教室の案内を広報にも掲載してくれることになりました。相談すると早速浅めし食堂に足を運んでくれました。本気のやる気は人をつないでくれるんですね。

視察研修においての内面への揺さぶりももちろん大きな変化のきっかけですが、スタッフは、浅めし食堂で今後も仕事をしていきたい、なくなっては生活が困るということから真剣に考えるようになったわけです。大変素晴らしい動機じゃありませんか。こういう現実的な動機は重要なポイントです。

「主体的に」なんて、保健師はよく住民に対して使いますが、初めから主体的な人はバンバンすでにやっています。そうではない人たちが主体的になるには、内なる影響力だけでは限界があり、外からの刺激によって自分たちの価値をしっかり理解することが必要なのです。

著者
三上公子
NPO法人活き粋あさむし 事務局長、(株)ヘルスプロモーション青森 代表取締役、医療法人蛍慈会理事、コミュニティ・レストランネットワーク運営委員、保健師、看護学修士
保健師らしい仕事をしたいがために行政の保健師を退職し、フリーの立場でヘルシーコミュニティ形成に奮闘中。
ヘルスプロモーションの活動において、地域住民の立場でコミュニティのしくみを探り、住みよい地域をつくろうと思って活動をしています。

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