保健師のビタミン

映画にみる(発達)障害

第6話「なぞる」ということ

『ギルバートグレイプ』(1993、アメリカ)
主演:ジョニー・デップ、ジュリエット・ルイス、メアリー・スティーンバージェン、レオナルド・ディカプリオ、ダーレーン・ケイツほか

今回からの数回は知的障害者を題材とした映画をご紹介したいと思います。

この映画は、知的障害の弟をもつ兄とその家族のおそらくは10日間程度の日常を描いた詩情豊かなものです。

ただここでは知的障害をもつ弟(レオナルド・デカプリオ)が前面に出るのではなく、その兄(ジョニー・デップ)を中心とした家族、そして地域の人々の心情をゆっくりと描きながら物語りは進んでいき、まさに詩情豊かという言葉がぴったりだと思います。

この映画の監督のL・ハルストレムは「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」という映画をとっており(こちらもお勧めです!)そこでは、小学生の男の子が成長していく姿が、日常と少しのドラマとの間で揺れ動きながらゆっくりと描かれています。

この監督の映画を見て私は下坂幸三という精神科医が心理療法で重要視した「なぞる」ということを思い出しました。

我々精神保健に携わるものが行っていることは特に難しいことではなく、ただ丁寧に、人々の日常や生活・人生をなぞっていくことである。

その姿は映画の本質とも通じることであり、そのような実直な営為にこそ人々は心動かされるのかもしれません。

著者
伊藤 匡
東京大学21世紀COE「心とことば- 進化認知科学的展開」特任研究員
1971年兵庫県生まれ。臨床心理士。日本では数少ないサバン症候群の研究を行う傍ら、精神科クリニック・スクールカウンセラーなどを現場として主に児童・思春期の精神保健に携わる

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