保健師のビタミン

映画にみる(発達)障害

第4話イロトリドリのセカイ

『どですかでん』(1970,日本)
主演:田中邦衛,頭師佳孝,菅井きん,加藤和夫,伴淳三郎,芥川比呂志,松村達雄

黒澤作品で初のカラー作品となったことからわかるように、彩りがとにかく鮮やかです(是非DVDでご覧ください)。

時代設定が不詳な廃墟を舞台としているにもかかわらず、というよりそのことでかえって色の鮮やかさが際立っています…と色の鮮やかさにこれだけ注目するには理由があります。

劇中の主人公ははっきり言って誰だかわかりません。ただ「でんしゃばか」と罵られながらも車掌兼車両になりきって「どですかでん!」と連呼しながら、街中を一人で往来する青年がストーリー展開における主軸になっており、私にはその青年が見た世界はかくも鮮やかに見えたのではないかと思えるのです。

彼が往来する廃墟には欲望や嫉妬をむき出しに生きる人々、それを支える人々、そこに寄生する人々がうごめいています。青年は劇中では冒頭と終演部にしかでてきませんが、おそらくはこのような廃墟に住まう人々の生活や死とは関係なく街中を「でんしゃ」になって往来しているのだと思います。

この青年を知的障害や自閉症(または妄想型統合失調症?)と言ってしまうのは簡単なことですが、この青年が実直に、脇目も振らず、ただ淡々と「でんしゃ」として往来している姿は、浮世に流されずわが道を行く(行かざるをえない)障害者の人々の姿と重なり、また彼に見えているであろうイロトリドリの世界を私も一緒に見てみたいと思うのです。

ちなみに、僕は秘かに思っているのですが、前回ご紹介した「フォレスト・ガンプ」は、ロバート・ゼメキス(監督)がこの映画をモチーフにしてを撮ったのではないかと思っています(あくまでも憶測ですが)。なんだか似てませんか?

著者
伊藤 匡
東京大学21世紀COE「心とことば- 進化認知科学的展開」特任研究員
1971年兵庫県生まれ。臨床心理士。日本では数少ないサバン症候群の研究を行う傍ら、精神科クリニック・スクールカウンセラーなどを現場として主に児童・思春期の精神保健に携わる

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