保健師のビタミン

園芸福祉で介護予防

第5話街かどデイハウス晴耕雨読舎での園芸福祉活動2

今回は、街かどデイハウス晴耕雨読舎での、利用者の方の一日の過ごし方を通した、取り組み事例の紹介です。

Aさんは右手右足が不自由な70歳代前半の男性です。
十数年前の脳内出血が原因で不自由になられましたが、それ以降トレーニングを重ね、なんとか杖を使っての歩行ができています。
Aさんは几帳面で、自分で決めたスケジュールは絶対に守るタイプ。晴耕雨読舎にも6年半通ってくださっていますが、用事以外での欠席はなし。風邪などの体調不良で休まれることもありません。

[10時少し前]
Aさんは、晴耕雨読舎から車で5分くらいのところに住んでおられます。お迎えは、いつも10時少し前に行かせていただきます。そのころにはきっちりと玄関の外に出て、車に乗りやすい位置で、奥様と待機しておられます。

[10:00~]
10時に利用者さんが晴耕雨読舎に着くと、屋外にある大きな屋根の下で、まず血圧と体温を測るバイタルチェックを行います。そして、この1週間の間で良かったこと、悪かったことの話をする「High & Low」の時間。晴耕雨読舎の利用は基本的に1週間に1回ですので、その間にあったできごとを一人ずつお話していただきます。

[11:00~]午前の活動開始
こちらで用意しているメニューがいくつかありますが、だいたいの利用者さんは「自分の畑」に行かれます。晴耕雨読舎では、自分の畑区画を持っていただいていて、そこは、利用者さんが植えたいものを植えていただいています。
Aさんは、足が不自由でしゃがみこめないので、レイズドベッドといわれる木枠を使って高さをもたせた花壇を使って野菜を育てておられます。ご本人はナスが大嫌いなのですが、最近は秋ナスがよく育っていて、奥様のために収穫して持ち帰られます。すぐ隣に植えているサツマイモもいい調子です。

野菜の手入れが終ると、菊の世話です。
10鉢ほどの大菊に肥料をやったり、土を入れ替えたり、毎回やることはたくさん。この菊は、毎年11月ごろに大きな花を咲かせてくれます。私たちはとても立派だと思うのですが、Aさんにとっては、週1~2回の晴耕雨読舎利用時の手入れでは物足りないようで、いつも咲いた花を見て「アカンな。まだまだ」と言っておられます。

Aさんにお越しいただいてから、学ばせていただいたことや、うれしかったできごとはたくさんあります。その中でも良かったことは、倒れてからそれまで10年近くストップしていた菊づくりを、晴耕雨読舎にきて1年後に再開されたことでした。また晴耕雨読舎ではじめると同時に、ご自宅の庭を不自由な身体でも使えるように改修して、自宅でも菊づくりを始められました。
私たちは、晴耕雨読舎でやっていることが普段の生活にも活かされ、Aさんの生活を豊かにすることのお手伝いができて、とてもうれしかったことを覚えています。

菊の世話の後、お昼までにまだ時間がある場合は、大工仕事にかかります。 最近はビッグプロジェクトの依頼が多く、先月までは晴耕雨読舎の外塀16m分の木製フェンスづくりをしていただきました。現在は来月にオープン予定のデイサービスセンターで使用する屋外用ベンチ4脚の製作に取り掛かっていただいています。 木材や道具などをスタッフが運んでいくと、動く左手と左足で工夫をして、材料をノコギリで切るところから、クギ打ち、ドリルでの穴あけ、ペンキ塗りまでほとんどご自分ひとりで作られます。スタッフは時々材木を押さえに行ったり、持ちにくいところのお手伝いをしたりするだけです。

(写真:ペンキ塗り)

ご自身が今野菜を植えられている長さ120cm×幅60cm×高さ60cmのレイズドベッドもAさん作です。 最近、依頼が多いこともあってメキメキと腕を上げられていて、仕上がりの正確さが増してきました。

[12:15~]お昼ご飯
利用者さんはご自分でお弁当を持ってきたり、晴耕雨読舎で弁当を注文したりいろいろですが、毎年2月に自分たちで仕込んだ味噌を使い、旬の取れたて野菜を具にした味噌汁が必ず出ます。手ごろな野菜と、調理を担当する利用者さんがいらっしゃる場合、味噌汁以外にも取れたて野菜料理がいくつか出るときもあります。 お昼ごはんは、大きな屋根の下でいただきます。

[13:30~]休憩時間
昼食後、30分程度、コーヒーを飲んでの休憩時間です。
Aさんは他の人が休憩していても、1時30分ころになると、午後の活動をはじめます。
晴耕雨読舎に来られる方の活動パターンはいろいろですが、午前中に活動的な作業をして(畑作業や花壇の手入れなど)、午後からはじっくり腰を落ちつけてできることやゆっくりペースでできること(版画、編み物、シソの実とり、苗の植え替え、花摘み、散歩など)を選択される方が多いです。

Aさんは、大工作業を中心に午後の活動を組み立てておられます。作業場に、他の利用者さんに作っていただいた専用の道具台に道具をそろえ、材料をそろえてじっくりと作業にかかります。Aさんの中では「今日の作業はここからここまで」というのが決まっているようで、自分に課した課題ができるまで、あまり休憩も取らず集中して作業を行っています。

[15:40ころ~]帰り支度
Aさんはその日の自分の課題ができていれば早めに作業を終了し、できていなければギリギリまで作業をされます。
帰宅前のバイタルチェックをして、今日の活動の振り返りを利用者さんと一緒にして、活動は終了です。

[16:00~]帰宅
送迎車に乗り込んで帰宅です。
スタッフや他の利用者さんが摘んでまとめてくれた小さな花束と、自分の畑で収穫した秋ナスを奥様のお土産に袋につめて、持ち帰られます。
利用者さんが、帰宅されるときに「あ~。今日も一日楽しかった」「また次が楽しみ」と言って満足していただける活動を提供することが、私たちの使命だと考えています。
そのためには、利用者さんが“自らやりたいこと”を“自らできる”お手伝いをすることが私たちの仕事です。やりたいことを見つけていただき、意欲を持って活動に参加していただくためには、命があり、自ら変化をしてくれる植物を活用した「園芸福祉活動」はとても有効です。

晴耕雨読舎での活動は、園芸福祉抜きでは考えられません。

著者
石神洋一
特定非営利活動法人たかつき 主催
NPO法人日本園芸福祉普及協会理事、日本園芸療法協議会理事など
著書に「福祉のための農園芸活動―無理せずできる実践マニュアル」(農文協)がある。

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