保健師のビタミン

園芸福祉で介護予防

第4話街かどデイハウス晴耕雨読舎での園芸福祉活動

第2回目でご紹介した街かどデイハウスでは、介護予防と生きがいづくりを目的にしています。
お年寄りに、昼食も含め一日をお過ごしいただくという点では、デイサービスと非常によく似ています。デイサービスと違う点は、介護保険のサービスを使っている方は対象にならず、比較的お元気な方が多いということです。自分のことは自分でできる、いわゆる自立の方の割合が8割くらいです。

晴耕雨読舎では、2001年のサービス開始当時から、園芸福祉活動を中心に1日の活動を組み立ててきました。“園芸を利用する”というそれまでになかった珍しい取り組みだけに、試行錯誤の連続でした。トライ&エラーを繰り返しながら6年半続けています。

晴耕雨読舎では現在、以下の二つの方針を立て園芸福祉活動を行っています。
①利用者さんがやりたいことをやっていただく
②利用者さんができることは、できるだけ自分でやっていただく

①は当たり前のようですが、最初のころはうまくいかず、苦労しました。
開設当初、私たちは
「園芸福祉をやるぞ!!」
「園芸福祉をやれば利用者は喜ぶはず。」
と気合を入れていました。

毎日の活動プログラムを必死で考え、準備をしました。利用者さんが来ると準備しておいた材料や道具類を手際よく並べ、利用者さんに楽しい部分だけをやってもらい、後片付けはスタッフがやっていました。
利用者さんは、活動をしているとき以外の時間は基本的に待っているだけ。
そうして半年くらい経ち、植物が少ない冬になってくると、だんだんメニューが手詰まりになってきました。
また、こちらが“おもしろいだろう”と思って提供しているプログラムは、利用者さんが“本当に楽しいと思ってくれているのか”という疑問も生まれてきました。
高齢の方ほど、スタッフの私たちに気を遣ってくださるので、本音のところはなかなかでてこないのです。

そんな時、お一人の男性が「本棚を作ってみたい」とおっしゃいました。私たちはせっかくのご希望だから……と材料などを準備し、その利用者の方主体で大工仕事を進めていただきました。
そして本棚ができあがった時、その方は今までに見たことがないような笑顔。それも達成感のある笑顔をにじませて喜んでくださいました。

それを見たとき、私たちは「ああ、利用者さんがやりたい、ということをやってもらえばいいんだ」と気づいたのです。私たちが考えよう、提供しようとするから、“行き詰った”ことがわかったのです。

そのできごと以来、私たちは「スタッフ主体」から「利用者主体」のサービスに切り替えました。それまでプログラムを考えていた時間は、利用者さんの希望を聞きだす時間に充てるようにし、利用者さんのやりたいことを形にしていくサポートをするようになりました。

今では、“利用者さんの「やりたい」からはじまるプログラム”がほとんどの活動となり、準備から片づけまでを利用者さんがしてくれるようになりました。
②の「利用者さんができることはできるだけ自分でやっていただく」も当たり前のことのように聞こえますが、こちらはスタッフの意識統一と工夫が必要です。

園芸福祉活動の中で、身体を動かす機能訓練のチャンスはたくさんあります。 晴耕雨読舎は介護予防を目指している施設なので、身体機能の維持・回復のために、利用者さんにできるだけ身体を動かしていただきたいと考えています。

ここで押さえておかなければならないのは、スタッフは何をもって利用者のサポートをしようとしているかということです。
「スタッフがやってしまったほうが、うまく・早くできる」
「利用者にやってもらうと、余計にスタッフの手間がかかる」
ということは、園芸福祉だけではなく、サービスを提供していく中でたくさん出てくることです。

そんな時、利用者に代わってスタッフがその作業をやってしまうのは簡単だし、そのほうが利用者が楽をできて、喜んでくれることもあります。しかしこれは、利用者の大切な機能訓練のチャンスを奪ってしまうばかりか、自分でやることの楽しみや達成感を得るチャンスをも奪ってしまうことになり、長期的に見ると大きなマイナスです。

大切な機能訓練のチャンスを奪わず、拡張していくためにどうしたらいいか。晴耕雨読舎では、利用者の方が自ら自分のやりたいことができるように工夫するようにしています。
例えばガーデンや畑には、木枠で土を囲って、高さを持たせた花壇(レイズドベッド)がいくつもあります。この花壇を使えば、しゃがみこむ必要がないので、足腰の悪い方でも無理なく自分で畑作業をすることが可能です。スタッフは重い肥料を運んだり、年に数回土を耕すのを手伝うぐらいで、普段はあまり手伝うことはありません。

このような工夫をすることで、利用者の方は制限されずに自分たちの思うことができ、自然と身体が動かされることになります。
スタッフは、利用者の安全を確認し、利用者のできないところだけをお手伝いすれば良いので、大切な部分に集中してサービスを提供することができます。

このように方向性が見えるまでは、日々の活動を続けていけるのか不安に思うこともありましたが、「わからないことは利用者に聞け。利用者の方が一番よく知っている。」と考えるようになってから、運営の方向を見失うことはなくなりました。

著者
石神洋一
特定非営利活動法人たかつき 主催
NPO法人日本園芸福祉普及協会理事、日本園芸療法協議会理事など
著書に「福祉のための農園芸活動―無理せずできる実践マニュアル」(農文協)がある。

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