地域保健WEB連載

なな先生のことばの発達教室

第17回 5歳児健診の時期のことばの発達(後)

――「ことばの発達」と「学習準備」を観察する視点

5歳児健診は、就学時健診だけでは拾いきれない小さなサインを、家庭・園・医療・福祉・教育へ橋渡しする場です。前編では、発音(構音)と吃音(きつおん)を切り口に、「短い健診の中でも共有できる見立て」を整理しました。
後編は、より外から見えづらく限られた時間でのアセスメントが難しいテーマである、「ことば全体の力(言語発達)」と、「読み書き・数の学び(学習障害の芽)」に焦点を当てます。
言語やコミュニケーションのお悩みでは、たとえば「会話が噛み合わない」「質問にうまく答えられない」「説明がまとまらない」「しりとりやルールのある遊びが続かない」「絵本の内容を順番に話せない」といった言語発達の困りごとがあります。学習の準備としては、「ひらがなが覚えにくい」「文字に興味をまったく示さない」といった学習面の困難です。
健診の現場には、言語発達を専門的に評価できるスタッフが常にいるわけではありません。「どこを見ればよいのか分からない」「気になるけれどことばにできない」「園や家庭の話を聞いても判断がつかない」。実際は、そんな手探りの状態からスタートすることが多いと思います。
また、医療機関や発達支援センターで働く言語聴覚士は、1ケースにつき45~60分を超える長い面談とアセスメントの時間を取ることができます。しかし、健診の現場ではお一人おひとりに対してそのような時間の使い方はできないものだと思います。
今後、5歳児健診がどのような形になっていくのか、まだまだ手探りの段階ではあるかと思うのですが、言語聴覚士はこのような視点から言語やコミュニケーション、学習面のことを観察しています、ということをまずはお伝えできればと思います。

言語発達面:自分のことばで、相手に"伝える"力がぐんと伸びる時期

 やり取り:会話の順番や話題が共有できているか 

5歳になると、多くのお子さんは日常的なやりとりがスムーズになり、「聞く」「返す」「続ける」といった会話の基本ができるようになってきます。健診の場面では、やりとりの中で「順番を守って話す」「話題がずれずに続けられるか」などを見ることができます。
たとえば、「好きな食べ物は?」と尋ねたときに、それに答えず唐突にまったく別の話を始めてしまったり、質問に対して一言だけで返して終わってしまうような場合には、話題の共有や会話の交代に課題があるかもしれません。また、相手の反応を待たずに一方的に話す、逆に何を話していいか分からず黙り込む、といったお子さんもいます。
お子さん一人ひとりにさまざまな背景がありますし、その日そのときにたまたまそうだった、ということもあります。一口に「○○のせい(例:神経発達症のせい)」と決めつけることはできません。

 理解:二段階指示や説明を追えるか 

この時期のお子さんには、「○○を持ってきて、ここに置いてね」といった二段階指示が通るようになってきます。また、保育園や幼稚園では、先生の話を聞いて行動を切り替える経験が増えるため、「話を聞いて、意味を理解し、行動につなげる」という一連の流れが、少しずつ定着していきます。
健診の場でも、「○○と△△、どっちが好き?」のように選択を含む質問や、「この絵の中で、赤くて丸いものはどれ?」といった複合的な指示を出すことで、理解の段階を確認できます。もし、単語だけを拾って反応していたり、指示の後半が抜けてしまうような場合は、言語理解の苦手が考慮されるかもしれません。

 表出:語彙、文の長さ、説明のまとまり 

5歳前後になると、語彙も増え、2語文・3語文から、文らしい発話が出てくる時期です。自分の体験や考えを、少しずつ順序立てて話せるようになってくる子もいます。「きのう、おばあちゃんのうちに行って、ケーキを食べたんだよ」というように、主語と述語を含んだエピソードが語れるかどうかも観察のポイントになります。
一方で、語彙が限定的で「それ」「これ」などの指示語が多かったり、話が単調で、「○○した」「○○だった」だけの連続になる場合には、表出面での苦手さがあるかもしれません。
また、日常的なやり取りには支障はありませんが、話にまとまりがなく、結論だけをぽつんと言ったり、何を言いたいのか分かりづらい話し方になる、談話(ナラティブ)水準の苦手さが隠れていることもあります。
理解、表出の苦手についても成育歴や言語の環境、本人の特性など、お子さん一人ひとりにさまざまな背景があり神経発達症(発達障害)だけがその原因とは限りません。
より詳しく言語発達の状況を知りたいお子さんには、質問紙式の発達検査などを利用できます。健診の後、言語聴覚士におつなぎいただければ、「PVT-R絵画語い発達検査」「J.COSS 日本語理解テスト」「S-S法言語発達遅滞検査」「LC-R: 言語・コミュニケーション発達スケール[改訂版]」などを用いて言語理解力を客観的な指標に照らし合わせて調べることができます。

学習準備:発達性読み書き障害のサインに気がつくことも

発達性読み書き障害とは、知的には問題ないのに、文字の読み書きだけが極端に苦手な状態です。本人の努力不足や勉強不足ではなく、脳の働き方(文字や音を処理するタイプ)の違いによって起こります。「ディスレクシア」の呼び方で聞いたことがある方もいるかもしれません。
5歳の時点で、読み書き困難につながるサインに気がつくことは難しいのでは? と感じる保健師さんもおられるかもしれません。確かに、5歳は個人差が大きく、ひらがなにどれくらい触れてきたかなどの環境もさまざまでしょう。そのため、「今できない」だけで読み書き困難と結びつけて考えるのは早合点かもしれません。
一方で、「5歳はまだ文字が読めないのが普通」とも言い切れないのです。国立国語研究所の1967年の大規模調査では、ひらがな71文字について、まったく音読ができない年長児は1.1%で、平均読字数は53文字(74.6%)でした。その後、同様の方法で行われた1988年の調査では、年長児の平均読字数は65.9文字でした。 さらに、年長児を対象に同じ枠組みで実施した2014年の研究では、平均読字数は64.9文字と報告されています。
つまり5歳は、「読める子が増えてきやすい一方で、ばらつきもある」年齢です。健診で目指したいのは診断ではなく、就学前に少し支えがあると安心そうなお子さんがいれば、必要な相談先につなげることです。

サインの中心は「音に気づく力」

読み書き困難の初期サインでメインとなるのは、「音に気づく力」です。文字は、音を目で見える形にしたものなので、ことばが音でできていると気づけるかどうかは、その後の読みの習得に影響します。
5歳頃になると、「『ねこ』ということばはいくつの音でできている?」と聞いて「ね・こ、2つ(2音)」と分ける(音韻分解)、「ばななの最初の音は?」と聞いて「ば」と言う(音韻抽出)といった、音を操作する力(音韻意識)がついてきます。
ウェブサイト「5歳児健診ポータル」の「動画で分かる! 5歳児健診」では、問診の中に「しりとり」が組み込まれていますね。しりとりでは、語彙力やコミュニケーション、ルールを分かる力を見ることもできますが、同時にこの音に気づく力、音韻意識の育ちを見ることができます。

文字と音を結びつけることへの負担が強い子も

5歳になると、自分の名前を書こうとしたり、ひらがなに興味を持ったりする子が増えます。この時期に「文字を覚えるのが遅い」「文字に興味がない」という訴えがよくあります。
気にすべきポイントは、取り組み量に対して、本人の負担が強いと感じる状態が続くかどうかです。同じ文字を見ても毎回迷い、読みに自信が持てないように見える、自分の名前の文字がなかなか定着せず、いつも一から覚え直している感じがある、こうした様子がいくつか重なり、期間を空けても改善が乏しいときには気になるサインかもしれません。
もちろん、文字の学習、特に書くことを急がせる必要はありません。読み書きに向かう前の土台として、身の回りにある看板や手紙など、文字の存在への気づきを促す関わりをお伝えするとよいかと思います。

「ことばが出てくる速さ」が、読み書きの苦手とつながることが

読み書きが苦手な子の中には、ことばを素早く取り出すのが苦手な子がいます。知っている語彙が少ないというよりも、言いたいことはあるのに、そのことばが喉元からなかなか出ないといった様子です。ことばを取り出す力と読み書きの力は、関連があることが分かっています。
読み書きについて、言語聴覚士が実施できる検査の一つに「STRAW-R 改訂版 標準 読み書きスクリーニング検査」があります。検査自体は就学後のお子さんを対象としているのですが、一部、未就学児でも実施可能なRapid Automatized Naming(RAN)という検査があります。RANは、絵や数字などの「見慣れたもの」を、できるだけ速く正確に言っていく課題で、将来の読み書き能力の発達を予測する指標のひとつとして用いることができます。あまり知られていないため、参考までにこの場でご紹介させていただきました。

目と手の協応は「書く準備」

また、「書く」側の苦手としては、目と手の協応や手指の巧緻性が挙げられます。線をなぞるのが極端に苦手だったり、枠から大きくはみ出したり、見本を写すときにどこを見ればよいか迷っているなどの様子は、読み書きへの影響が考慮されます。
ただし、手先の不器用さや見ることの苦手さがあるだけでは、読み書き困難とまでは言えません。音への気づきや、ことばの取り出しの様子と合わせて見立てる必要があります。

5歳での見立ては「複数が重なるか」と「ヒントで伸びるか」

このように、学習準備としての読み書き困難のサインを見極める基準は二つあります。ひとつは、気になる点が複数の領域にまたがって重なるかどうかです。もし、音の扱いの弱さと、取り出しの弱さがひとりのお子さんの中でどちらもあるときは、読み書きの困りの芽として押さえておくとよいのです。もう一つは、ヒントを出したときにうまく行く部分があるかどうかです。
たとえば、ことばの音を分けることが難しくても、手拍子をつけるとうまく分けられる子がいます。その場合は支え方が分かりやすく、家庭や園での遊びを通した伸びが期待できます。手がかりを変えても反応が変わりにくい場合は、就学前の相談につなげる重要度が高くなります。

保護者への説明は「決めつけない」と「今できる支え」をセットで

保護者の不安は、「障害ですか」という一点に集まりやすいです。ですが、まず決めつけない姿勢が大切です。5歳は個人差が大きく、今の時点で断定はできません。
その上で、「今できる支え」を具体的に伝えることができると、相談が前向きになります。音遊びやことば遊びを増やし、しりとりやことば集めを、勝ち負けよりも楽しさ優先で続ける。絵本の読み聞かせの中で、同じフレーズを繰り返し味わう。文字に触れるなら、覚えさせるより、見つける遊びとして扱う。こうした関わりは、診断の有無に関わらず、就学準備として役に立ちます。

まとめ

前編、後編と分けて5歳のお子さんの言語・コミュニケーション、学習準備の育ちについて解説しました。もちろん、健診はそのほかにもさまざまな育ちを見る場でもあり、健診の数分でお子さんのすべてを知ることは難しいと思います。丁寧に見ることが難しい場面もあるかと思います。
ただ、健診で「引っかかった」その先・その後にどんな手立てがあるか? をご紹介した意図としては、「見通し」があります。なにか困りごとがあっても、その先の見通しを少し持てることで、ずっしりとした重い気持ちを軽くしながら進んで行けるかもしれません。本稿が、そうしたことの一助となりましたら幸いです。


【参考文献】

  • ・国立国語研究所(1972)『幼児の読み書き能力』東京書籍
  • ・島村直己・三神廣子(1994)「幼児のひらがなの習得―国立国語研究所の1967年の調査との比較を通して―」『教育心理学研究』42(1), 70-76.
  • ・太田静佳・宇野彰・猪俣朋恵(2018)「幼稚園年長児におけるひらがな読み書きの習得度」『音声言語医学』59, 9-15.
  • ・5歳児健診ポータル「動画で分かる! 5歳児健診(健診の流れ・動画一覧)」5歳児健診ポータル(ウェブサイト).(5歳児健診ポータル)
  • ・『5歳児健康診査マニュアル(令和3年度~5年度 こども家庭科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)』.日本小児保健協会 掲載資料(PDF).2024.(JPA Web)
  • ・厚生労働省(平成30年度 障害者総合福祉推進事業)『吃音、チック症、読み書き障害、不器用の特性に気づく「チェックリスト」活用マニュアル』.(mhlw.go.jp)

「5歳児健診ポータル」の「保健師の方へ お役立ち資料・ツール」に、「吃音、チック症、読み書き障害、不器用の特性に気づくチェックリスト」(通称、CLASP)が掲載されており入手可能です。 吃音やチック、読み書きの困難、不器用さなど、見逃されやすいサインに目を向けるための19項目です。所要時間はおよそ5分。短時間で、ことば・運動・情緒面を横断的に見られる実用的な内容になっています。

著者
寺田奈々
ことばの相談室ことり
言語聴覚士

なな先生のことばの発達教室 一覧へ

ページトップへ