地域保健WEB連載

なな先生のことばの発達教室

第3回発達健診でのことばの相談

1歳半・3歳児健診などの乳幼児健診は、日本が誇る素晴らしい仕組みです。赤ちゃんの病気や健康上のトラブル、虐待リスクなどをすみやかに発見し、対応に繋げることで乳幼児死亡率を下げ、健やかな育ちを支援します。

養育者が発達健診で感じるプレッシャー

その一方で、同じ月齢の子どもたちを一堂に集め、一律の発達課題を課し、比較のまなざしを向けることが、少なからず養育者へのプレッシャーとなってしまっていることは否めません。1歳半健診や3歳児健診で実施される項目を下調べし、事前に家庭で練習をしてくる方さえいるそうです。健診は試験ではないので対策して挑む必要はもちろんありません。健診に備えてことばを言えるよう教えこむのも、本来の発達の順序やペースを考えると本質的でなく、あまり意味がありません。養育者のこうした行動の裏には、お子さん自身や育て方に対して、バツ印が付けられるかのようなプレッシャーがあるのではないでしょうか。本来の健診は、生まれたばかりのお子さんを私たちの社会に温かく迎え、それぞれの健やかな育ちを応援するためにあるはず。お子さんの育ちの環境に最も大きな役割を果たすのは、そばにいる養育者です。その養育者を、むやみに不安にさせたりがっかりさせたり、心配で何も手につかなくさせるための健診にはしたくありません。

ことばの発達には個人差があると言われるけれど

自治体による細部の違いはあると思いますが、健診では認知発達・言語発達の項目が色々と並びます。「指さしをする」「意味のあることばをひとつ以上話す」などですね。
けれども、これらの項目は、100人のお子さんが100人ともぴったり同じ時期に通過しないといけない、という厳格な指標ではありません。ご存じの通り、発達には個人差があります。では、個人差の範囲内とはどの程度の幅を想定しておけばよいでしょうか。
乳幼児健診で長らく使用されてきたデンバー発達判定法(*)によれば、「ママ・パパなど意味のあることば(有意味語)をひとつ言う」という項目は、9か月過ぎに25%の子が、1歳0か月に50%の子が、1歳3か月に75%の子が、1歳6か月に90%の子が通過する(=できるようになる)とあります。
「2語文を話す」という項目は、1歳8か月に25%の子が、1歳10か月に50%の子が、2歳0か月に75%の子が、2歳6か月に90%の子が通過する(=できるようになる)とあります。こうして改めて眺めてみると、「意味のあることばをひとつ言う」には、8~9か月の幅が、「2語文を話す」には、9~10か月の幅がそれぞれ設けられているのです。乳幼児は1歳を過ぎるとはじめてのことば(初語)を話す、と知られていますが、同検査によれば1歳0か月の時点で初語があるのは、全1歳0か月児の約半数の50%ということになりますね。


* 「デンバー発達判定法」より抜粋し、一部の表現を変更

「ことばの遅れ」を見極める難しさ

それから、上記の指標に当てはまらない残り10%のお子さんのすべてがすなわち「言語発達遅滞」なのか、といえば、必ずしもそう言い切れないのが言語発達の相談支援の難しさです。3歳までお話ししなかったお子さんがある日突然話し出した、というケースを聞くこともときどきあります。それから、ことばの発達・獲得には、まだよく分かっていないこともたくさんあります。なんらかの障害をお持ちであっても、お子さんに合った支援介入が行われることでその子なりの方略を見出し、言語・コミュニケーションを獲得していくケースを、言語聴覚士として多く経験しています。ことばを話す/話さないだけをみるのではなく、人への興味関心、非言語コミュニケーション、身体や感覚器、運動の発育・発達などの側面などからも、立体的にその子の持つ力・状況を見極めていく必要があります。相談支援の場で先の見通しをお伝えすることはとても大切ですが、発達健診が行われる1歳半や3歳の時点でなにかを言い切るのがとても難しいと感じるのもまた事実です。

指摘は受けるけれど手立てを教えてもらえない

ところで、発達健診では、ことば・コミュニケーションに関する項目のほかには、「視線が合わない」「名前を呼んでも振り向かない」「周りの人の真似をしない」、といった項目が含まれることもあります。これらの項目は、神経発達症(発達障害)、知的障害など、お子さんの障害を早期発見するために設けられているものです。ただ、早期に障害を検出・発見されたとて、お子さんたちが早期から手厚くフォローされたり療育等の介入が開始されているとはなかなか言えない心苦しい状況です。相談機関からは、指摘は受けるけれども肝心の手立てやこれからのことをあまり教えてもらえていないことがあります。これでは、保護者・養育者は心細い状況に置かれ、孤独を抱え続けてしまいます。そもそも、子育てには大小さまざまな不安がつきものです。子どもを育てる過程で次々とやってくる不安と付き合ったりかわしたりしながらなんとかやっていくためには、保護者・養育者として「やれている実感」を持てる瞬間があることも大切なのだと思います。ところが、障害を持つお子さんを育てる養育者は障害由来の困難にぶつかることが多く、それはみかけ上、お子さん本人らしさと渾然一体としています。抱える困難は気づかれづらく見えづらいので、養育者は育て方のせいなのかと自分を責めることが増えるかもしれません。そうすると、子育てを「やれている実感」は、持ちづらいのだと思います。

深刻な療育不足・待機問題

発達について支援が必要なお子さんに対する介入のことを「療育」と言います。療育を希望しているにもかかわらず必要な支援に繋げられない、いわゆる療育待機が非常に多いのが昨今の現状です。小児を専門に相談・診断のできる医師、子どもの発達を専門とする療法士(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)や臨床心理士・公認心理士などの専門職が各地域に不足しています。気になる点への指摘や診断をきっかけに次の手立てを考えたいとなったとしても、その次の一手を得るのに非常に苦労しながらあちこち探す必要があります。たとえば毎週・隔週など定期的な療育的介入が行われることが望ましいお子さんであっても、マンパワーの都合上、半年に1度の経過観察の対応となってしまうことも珍しくありません。

発達支援に繋がるために

健診や巡回指導、発達相談のその先に、継続した発達支援を受けられる代表的な療育先をご紹介します。※各地域によって細かな点には違いがあります。

自治体(市区町村)の療育センター

自治体が直接運営している、委託を受けて民間事業者が運営しているなど、形態はさまざまです。児童発達支援事業(後述)を兼ねている場合があります。必要度や希望によって、週に複数回通園・通所することもあれば、週に1回から月に数回などの頻度での通所となることもあります。

発達外来を持つ小児クリニック・病院

子どもの発達を専門とする部門を持つ医療機関では、医師が支援を得るための診断を行ったり、発達の相談に乗っていたり、専門職が個別・集団の支援や療育を行っていることがあります。リハビリ職などの専門職が在籍していることが多いですが、規模の大きな病院や、その地域にひとつしかない発達外来などの場合には、なかなか予約が取れなかったり、対応できるのが月に1回~数か月に1回であったりなど、頻度が少ないことがあります。

児童発達支援事業

児童発達支援事業は、児童福祉法に基づいて運営される療育事業です。未就学児が中心の児童発達支援事業所と、就学している児を対象とする放課後等デイサービスがあります。施設によって在籍スタッフの所有する資格、提供するサービス内容は異なります。集団療育と個別療育、送迎や長時間預かりの有無などの違いがあります。利用には受給者証が必要です。

訪問看護ステーション(訪問リハビリテーション)

あまり知られていませんが、訪問看護の仕組みを利用すると、お子さんでも医療保険でハビリテーション(*)・リハビリテーション(理学療法・作業療法・言語聴覚療法)を受けることができます。家庭に看護師やリハビリの専門職が訪問し、個別支援・介入を受けます。利用には医師の指示書が必要です。

(*)リハビリテーションが失われた機能の再獲得や代償を指すのに対し、ハビリテーションは先天性の障害や小児期からの障害に対して発達を促す療法士の介入のことを指す。

もちろん、これらの機関に繋いでいくために「発達障害」や「療育」などの用語をいきなり掲げてしまうと、一歩引いてしまわれる養育者も多いのではと推測します。本格的な療育・支援にいきなり繋ぐ手前でワンクッションあったほうがよいと思われる方のために、保健師さんたちは、子育て広場や、育児相談など、さまざまな場を用意してくださっていることと思います。そうした、気軽に相談できる中間的な場はとても大切だと感じます。保健師さんと発達支援の専門職がそれぞれの職域で役割を果たしつつ、お互いの取り組みを知っていけるとよいですね。

  • 【参考文献】
    ・『発達障害支援・特別支援教育ナビ 発達障害の子を育てる親の気持ちと向き合う』中川信子編著, 金子書房, 2017
  • ・『Dr.平岩 動画で直伝 子どもの発達障害 外来診療の工夫』平岩幹男著, 中山書店, 2022
著者
寺田奈々
ことばの相談室ことり
言語聴覚士

なな先生のことばの発達教室 一覧へ

ページトップへ