地域保健WEB連載

なな先生のことばの発達教室

第1回発達の気になるお子さんがいるご家庭への支援

みなさんこんにちは。 言語聴覚士の寺田奈々と申します。 ことばの相談室ことりという小さな言語相談室を主宰して、ことばの発達が気になるお子さんを持つ親御さんの相談に乗ったり、ことばの練習をしたり、吃音や発音(構音)、学習面のお悩みを支援したりしています。

ウェブでの連載第1回目となる今回は、「発達の気になるお子さんがいるご家庭への支援」について考えたいと思います。

相談支援現場に寄せられるお悩みはさまざま

さまざまなお悩みが寄せられる保健師さんの相談支援の現場。ただ、お子さんの発達の相談については、「ことば」からはじまることも多いと聞きます。「ことばをお話ししない」「ことばが少ない」「ことばでのやり取りが成立しない」……そうしたお子さんのようすを不安に感じ、少しでも手がかりを得たい親御さんがたくさんいらっしゃいます。ことばや発達の遅れ、難聴、吃音、読み書き学習の気がかりなど、ことばにまつわるお悩みは、その場ですぐに見通しが立つものばかりとは限りません。頼れる支援者に「大丈夫ですよ」と言ってもらい、すぐに安心したいのだけれど、心配したり気にかけてあげたほうがよいのであればそれを教えてほしい……、と、揺れ動く戸惑いの渦中にいらっしゃることと思います。

それから、支援者の方はきっとうなずいてくださることと思いますが、決して少なくないのが、「ことば」をきっかけに始まった相談であったとしても、ことば以外にいろんなお悩み・困りごと・発達上の課題が見えかくれするケースです。たとえば、保護者の視点としてはお子さんの「ことばの遅れ」が前景に見えるので何より気がかりだけれど、支援者が発達の視点からお子さんと相対すると、ことばに限らず発達全体や育ちの環境全般を広く気にかけてあげたいと感じることがあります。「ことばの遅れ」に直結する支援ではなく、やや違う観点からの支援が必要であったり、「ことば」のみに特化した施設ではない相談機関や医療機関に繋げるべき状況が見えてきたりすることもあるでしょう。業務の範囲がことばの相談・支援に絞られている言語聴覚士でも迷いますから、お子さんにまつわる相談ごとが多種多様に混じり合う現場にて業務に従事される保健師さんであれば、お悩みや困りごとを把握する難しさはなおのことと思います。

相談ごとに対して、相談者と支援者にズレがある?

発達が気になるケースであっても、今すぐに問題にすべきなのか? どの程度の深さ・深刻さで問題にすべきなのか? 迷うことが多くあるかと思います。さらには、ことばが気になる、という点で同じ方向を向いているようで、すり合わせていくと実はズレがあるという、次のような事例もあるかと思います。

「保護者の方は、話せることばの数を気にされているけれど、支援者としてはお子さんのことばの理解面のほうをまずは大切にしてあげたい」「保護者の方は、ことばを喋らないことを気にされているけれど、支援者としてはお子さんの対人コミュニケーションの発達に注目してあげたい」「保護者の方は、発音滑舌を気にされているけれど、支援者としては文でのおしゃべりや語彙の数など、お子さんの言語発達全体をみてあげたい」――ことばの発達に対して注目している点は同じでも、ちょっぴり視点をずらしてあげたほうがいいのでは? と感じるケースです。

そうした場合、一般の方が直感的には理解しづらいポイントも多く含まれているため、丁寧な説明が必要となります。丁寧な説明には専門的な知識と充分な時間が必要です。ややもすれば、保護者の方の当初の訴えとは違うお答えを返すことにもなるため、相談支援を進めるひとつひとつの現場のご苦労に、想像が及びます。

一方で、「ことばの悩みを相談したのに、期待とズレた答えが返ってきた」「思ったような手がかりを得られなかった」という保護者サイドの声を聞くこともあります。

私自身がことばの支援に携わる言語聴覚士なので、「ことばの相談で言語聴覚士(ST)の支援を希望したのに、STに繋いでもらえなかったのでがっかりした」という声が耳に入ってくることもあります。その背景に、各施設の言語聴覚士スタッフの空き枠が足りないなどマンパワーの課題もあるかと思いますが、そうではなくて、言語聴覚士ではない専門職の支援が適しているとの判断によることもあるかと思います。マンパワー不足にせよ、説明と方針のすり合わせの時間を充分に取れないことからくる行き違いにせよ、なかなか難しい課題だと感じます。

相談者の直面している問題はどんなサイズの心配?

さて、お子さん個人をアセスメントする視点の一回り外側には、親子を支援する視点があるかと思います。養育者とお子さんがまったく同じ存在かといえばそうではなくて、もちろん別々の人間なので、私はいつも2人(以上)の当事者が一緒に来てくれるという“つもり”でお会いするようにしています。ときに現場のお悩みとして挙げられるのが、保護者の方がお子さんのことばについて「心配しすぎている」あるいは「心配しなさすぎている」というものです。子育ては長期戦。何から何まで心配すればするほどよい、とは限りませんよね。直面している問題に対する、心配の大きさを調整するお手伝いをするのが支援者の役割だと考えるようにしています。

また、保護者の方それぞれが持つキャパシティにも個人差があります。負担に耐えられる心の耐久度を容器にたとえるとするならば、少しの水で溢れてしまう方もいれば、大きな容器を持っていてたくさんの水が入る方もいらっしゃるでしょう。ご自身や家族のそのほかの課題(経済面や健康面、仕事や生活、別の家族にまつわる悩みごとなど)をすでにたくさん抱えているという方は、現時点ですでに心の容器にもうこれ以上の水が入る余裕が無いかもしれません。

相談者の心配ごとを支援者の頭の中で整理するヒント

お子さんの発達について、保護者の方が抱える心配の大きさを適切な範囲に調整するお手伝いをするには、どうすればよいのか。これと決まった答えの無い難しい問いではありますが、支援をおこなう方のヒントとなるよう、ひとつフレームをご紹介させていただきます(図)。縦軸に<保護者の心配度>、横軸に<ことばの遅れ・課題の程度>と、2つの軸を交差させた図を設定します。お子さんを連れて来られた保護者の方。目の前の方は、どのあたりにプロットできそうでしょうか。

もちろん、ことばの遅れがある・ないはハッキリと白黒線引きできるものではありません。それから、保護者の方の心配度についても、心配しているときがあったり心配していないときがあったりと、当然ひとりの人のなかで揺れ動くものです。支援者の頭のなかを整理して方針立てをしやすくするためのツールと捉えていただけると幸いです。

ご相談に来た方が図の、<保護者は心配している+ことばの遅れ・課題がある>に位置するのであれば、保護者と支援者とのあいだでアセスメントのすり合わせに進んでいく段階です。テキストに書かれているような支援の流れを比較的踏襲しやすいケースかと思います。周囲で利用できる支援のなかから、必要度に応じてSTやPT、OTなどの療法士や心理士などの直接支援に繋いでいただければと思いますし、家庭で取り組めることのご提案からはじめることもあるでしょう。保護者の方がすでに情報や手がかりを受け取る準備が整っていそうであれば、表現を曖昧にせず、その日から取り組めるような実践を具体的にお伝えするほうが喜ばれるように思います。

次に、<保護者は心配していない+ことばの遅れ・課題がある>に該当するご相談ケースです。こうしたケースでは、話の運び方が難しいかもしれません。伝え方によっては、次回の相談にいらっしゃらなくなってしまったり、次の支援に繋ぐのが難しかったりするかもしれません。ただ、私自身の経験上、発達の遅れをまったく心配していないということはやはり稀で、言語化には至っていないけれども、なんとなく“もやもや”をお持ちなので相談支援に繋がってくださった方も多いと感じます。保護者と支援者のあいだでお子さんの見立てについて意見が食い違っていたとしても、真っ向から言い争ってしまうと余計な遠回りになることや、なによりお子さんのためにならないことが多いです。ここで優先すべきは、「支援者が考える正しさ」への執心ではなく、お子さんを中心に据え、貴重な時間を大切にすることのはず。急がば回れ、保護者の方の言葉に耳を傾け、お子さんの発達に対する保護者のとらえ方を知ることからはじめてみてください。この支援者は否定から入らずに話を聞いてくれると感じてくださったら、信頼を寄せてくださり、少しずつ不安を打ち明けてくださることと思います。

<保護者は心配している+ことばの遅れ・課題がない>に該当するご相談ケース、こちらはどうでしょう。考え方によっては、相談支援の対象ではないのかもしれません。ですが、昨今私たちをとりまく社会を見渡すと、子育てにまつわる情報があふれています。なかには、出所が不明なもの、真偽が不確かなもの、まだ専門家の間でも結論が出ていないもの、度を越して商業主義が優先されたものもあります。それらが正しく・安心できる情報と強弱無しに一覧で表示されてしまうのが、近頃のインターネット経由の情報検索です。受け取り手のリテラシーが大切とはいえ、自身のお子さんのこととなると些細なことでも何かと結びつけてしまい、不安や気がかりになってしまうかもしれませんよね。
本来、支援の対象ではないかもしれないけれども不安を抱えているご家庭は、コロナ禍の昨今、以前よりも少しずつ増えているような気がいたします。お子さんの発達や子育て全般について、まったくなんの不安も無いということのほうが珍しいのかもしれません。個別支援や相談で1ケース1ケースを支えていく取り組みとは別に、ちょっとした情報を共有する場づくりであったり、啓発情報の提供方法を工夫することなどに取り組んでいかねばならないのかもしれません。そのためには、保健分野にて、さまざまな専門家が手を取り合っていくことが大切です。ぜひ、みなさんと一緒に考えていけたらと思います。

【参考文献】

  • ・中川信子.健診とことばの相談 1歳6か月健診と3歳児健診を中心に.ぶどう社.1998年
  • ・発達 172:子どものことば、再発見! https://www.minervashobo.co.jp/book/b607781.html 特集Ⅲ ことばをめぐる困難さと向き合う 鼎談 「ことばの発達を支えたい」(寺田奈々×萩原広道×楢崎 雅)
著者
寺田奈々
ことばの相談室ことり
言語聴覚士

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