【1/28ネットサロン勉強会開催レポート】いまあらためてウォーキング「奇跡の中之条研究」に学ぶ速歩健康法
群馬県中之条町の65歳以上の全住民5,000人を対象に、24時間365日の身体活動のデータを収集し、分析した「中之条研究」。ここで導き出された「1日8,000歩、速歩き20分」という疾病予防、健康増進・維持に効率的な黄金率は「中之条の奇跡」と称賛を浴び、海外のガイドラインや自治体などでの健康づくりの指標として広く取り入れられています。
地域保健編集部では2025年1月28日、この研究を25年続ける青栁幸利(あおやぎ・ゆきとし)さんを講師にお招きし、オンラインによる勉強会を開催しました。
開催概要
開催内容
【講演】
健康長寿の秘訣は”歩き方の黄金律”にあった ~「中之条研究」20年の成果
青栁幸利さん(東京都健康長寿医療センター研究所)
【話題提供】
健診受診率向上と医療費削減に向けた調査研究の社会実装について
~中之条研究の成果の普及による健康長寿社会の実現に向けて~
及川尚孝さん(一般社団法人JA共済総合研究所)
司会進行:地域保健編集部
開催報告
講演:健康長寿の秘訣は”歩き方の黄金律”にあった~「中之条研究」20年の成果
青栁利幸さんは、医学を学んでいた学生時代、言語学や物理学に興味を持ち、その理論の多くが「不変性」という観点で表現されることに心惹かれたそうです。実は、これが中之条研究の原点だといいます。
健康づくりとは、どこででも、誰にでもできるシンプルなものであるべき。
病気を防ぎ、健康を守るための不変の方法とは……。
青柳さんが抱いたこの強い思いが、「歩く」にこだわり抜いた「奇跡」の研究を生み出します。
2000年から、青栁さんは故郷である群馬県の中之条町で65歳以上の全住民5,000人を対象とした調査研究をはじめました。身体計測や採血などで健康状態を把握したうえで、当時まだ高価だった身体活動量計を24時間、365日身につけてもらいデータ化・分析をしていったそうです。そうした20年以上の積み重ねで得られたのが、日常の身体活動と病気リスクとの関係性です。
そこで青柳さんは、多くの病気を防ぎ、健康長寿につながる最善の方法は「1日に8,000歩を歩き、そのうち中強度活動を20分行う(速歩き)」ということに、たどり着いたそうです。それ以上歩いても健康効果は頭打ちになる、とグラフを示し説明されました。
「歩く」という身体活動に注目し、健康づくりとして実践することで、あらゆる生活習慣に波及効果がみられたそうです。例えば、よく体を動かしている人は、食事をおいしく感じるばかりでなく、栄養バランスよくとるという傾向が。また、寝つきがよく、眠りも深くなるなど睡眠の質が高まることも明らかになったそうです。「歩く」という日常の身体活動には、このほか気象条件、転倒経験、社会的支援、地理条件などとも関連があることを各種データから解説いただきました。
また、1日8,000歩・速歩きを達成するための具体的なコツについても教えていただきました。
「歩く」ことであらゆる病気を防ぐ。目指すは健康長寿ですが、それだけではありません。病院いらずの生活、すなわちお財布にやさしい(医療費がかからない)暮らしが実現できることも歩くメリットだということです。実際に中之条町で身体活動量計をつけている人とつけていない人(高齢者)の医療費を比べたところ、月額で1万円程度も差が出たそうです。2009年から働き世代にも身体活動量計をつけて調べたところ、そこでも医療費の削減効果があったとグラフを示していただきました。
青柳さんの研究グループでは、サプリメント(乳酸菌)と身体活動の関係についても研究を進めているそうです。乳酸菌をとったうえで身体活動をすると、健康効果はさらに高まるとか……。この話題については時間が足りず、詳しいお話をお聞きできませんでした。
近年、腸と健康の関係が注目され「菌活」がブームになっています。その詳細がとても気になります。ぜひ、また勉強会を開いていただき、お話いただきたいと思いました。
話題提供:健診受診率向上と医療費削減に向けた調査研究の社会実装について
~中之条研究の成果の普及による健康長寿社会の実現に向けて~
JA共済総合研究所は中之条研究の成果に注目、その標準化と普及活動に取り組んでいます。JA共済総合研究所の及川尚孝さんより、研究所の取り組みの背景、内容、展開イメージなどを紹介していただきました。
JA共済総合研究所はJAグループのシンクタンクの一つ。「農山漁村地域の生活の安定と福祉の向上」を目的に平成3(1991)年に設立されたそうです。主な調査研究分野は「社会福祉・社会保障」「地域社会・生活・環境」「事故・医療」「経済・金融」「共済・保険」の5分野。調査研究にとどまらず、そこで得られた各種ノウハウ等を社会実装に生かしていくことを目指しており、今回の取り組みもその一環だということです。
かつて(昭和30年頃)、農村地域では医療施設がほとんどなく、健診受診はとても難しかったそうです。そこでJAグループは厚生連病院や健康管理厚生連、保健所、大学、日赤病院などの協力を得た巡回健診や集団健診を実施、費用を助成して全国の農村地域の健康を守ってきた歴史があるそうです。
その後自治体等による健診が強化されていくに従い、健診事業(2次予防)から健康増進(1次予防)に軸足を移し、生活習慣の改善に注目した健康・長寿効果の調査研究活動へ。その成果は全国各地の健康教室などに還元してきたということでした。
こうした取り組みの中で出会ったのが、青柳さんの中之条研究だったそうです。JA共済総合研究所では、中之条研究の成果と健診受診を組み合わせ、どこの自治体でも再現可能な取り組みとして標準化、これを全国の自治体に広く知っていただき一緒に取り組むことで、健診受診率の向上と医療費の削減に貢献していきたいということでした。
参加者からの声(抜粋)
- 「中之条研究の詳しい話を直接聞くことができ、本当に感動、感無量でした」(保健師・企業)
- 「青柳先生のお人柄がにじみ出る講話でした」(保健師・市町村)
- 「地域の健康づくりに中之条研究を活用しています。 農村部に関わる仕事をしていますがJAの取り組みがここまでされているとは知りませんでした」(言語聴覚士)
- 「データがしっかり示され、説得力ある内容でした」(市議会議員)
- 「歩行についての理解が深まった」(保健師・都道府県)
- 「住民の皆さんへ伝えるときに、かなり力強くこの背景を伝えられると思った。住民の方の行動変容につながるきっかけをいただいた」(保健師・市町村)
- 「ちょっと頑張れば私にもできるかも! と、モチベーションを高めてもらった」(保健師・教育機関)
- 「研究の背景から教えていただき、とても勉強になりました。これから自分の自治体で事業を展開していく際にも役立てられる内容でした」(保健師・市町村)
――― 参加してくださった皆さま、ありがとうございました!
2025/7/8 地域保健編集部
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