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平成31年度保健師中央会議

4月24日、東京都港区の三田共用会議所で厚生労働省の「平成31年度保健師中央会議」が開かれ、全国の自治体から統括的立場にある保健師(統括保健師)が出席した。

例年7月に開かれていた保健師中央会議だが、今年は開催を4月に早めた。統括保健師として着任した人が関係業務について理解を深めるともに統括保健師同士の横のつながりを支援するため、年度当初の開催としたという。また、従来は災害関係のプログラムも含め2日間の集中的な開催としていたが、今年度は災害関係のプログラムは最新の情報を集め、内容を充実させて別の日に開催することになった。

宇都宮啓健康局長のあいさつ

冒頭、宇都宮局長は昨年の豪雨災害の被災地などへの保健師の派遣に謝意を示した上で、「DMATのような直接的な医療支援に限らず、復興ステージの保健活動も非常に重要と思っている」と話した。

昨年、局長が17年ぶりに健康局に戻ってきたときには、健康づくりでは医療保険や介護保険の予防活動で医療や介護の費用が削減できるという話ばかりが目立ち、地域の保健活動はいまひとつ元気がないと感じたという。また、今年3月29日に公表された保健師活動領域調査(活動調査)では、地区管理や業務連絡調整・事務に関わる活動時間の割合が高い一方で、地区組織活動に関わる割合は低い傾向にあった。宇都宮局長は、「保健師には住民や関係者とともに地区活動をしてきた歴史があり、それが強みでもある。保険者が行うさまざまな事業も、もとはと言えばヘルス部門の保健師の活動にあるので自信をもってほしい」とエールを贈った。

最近注目されている地域共生社会については、福祉分野に限った話題ではなく保健衛生も福祉と一体となって進めていくものだとし、例としてがん対策の3本柱の1つに「がんとの共生」があることなどを挙げた。

公衆衛生の役割ということでは、「医師や看護師の仕事に象徴されるように『衛生』という言葉には『生命をまもる』というイメージがあるが、生活や人生をまもるのも衛生である」との見方を示し、「病気ということにこだわらず、生活や人生をまもる公衆衛生従事者という気概を持って保健活動の推進を」と呼びかけた。

最後に、「各地域でそれぞれ大変な問題があると思うが、保健師中央会議のような場で国に対して物申していただければ、できるだけ課題の解決に向けて努力したい。ぜひ、活発な議論を交わしてしてほしい」と話した。

最近の健康づくり施策の動向

武井貞治課長は、健康日本21(第二次)、受動喫煙対策、健康寿命延伸プランなどの施策を中心に説明した。

健康日本21(第二次)では、基本的な方向として健康寿命の延伸や生活習慣の改善などを掲げている。そうした中で近年、山梨県が男女とも健康寿命が長くなっていることを挙げ、「健康寿命を延伸している自治体の取り組みから学び、次に生かすことが重要だ」と強調した。また、昨年公表された中間評価では、糖尿病のコントロール不良者の減少など改善された項目がある一方で、メタボリックシンドローム該当者・予備群の数や介護サービス利用者の増加の抑制などの項目は改善が不十分だった。武井課長は「従来のアプローチでは改善が難しい健康無関心層にどうアプローチしてくかが課題である」と指摘、「今後は自然に、意識せずに、健康になっていく対策を展開していく」と話し、例としてパンに含有される塩分量を減らして減塩に成功したイギリスの施策や、ちょっとした工夫で行動変容を促す仕掛け(ナッジ)を紹介した。

また、今年の夏ころに発表予定の「健康寿命延伸プラン」は、これらの「自然に健康になれる環境づくり」や「行動変容を促す仕掛け」を活用し、健康無関心層も含めた予防・健康づくりを推進し、地域・保険者間の格差解消などを目指すものであると説明した。健康寿命延伸プランは、①次世代を含めたすべての人の健やかな生活習慣形成等②疾病予防・重症化予防③介護予防・フレイル対策、認知症予防――の3つの分野を中心に展開するという。①の具体例としては、東京都足立区のベジタブルライフを紹介した。これは、区民の野菜摂取量が全国より少ないというデータをきっかけに、区内の飲食店に協力を求め、ラーメン等を注文すると自動的にミニサラダを出したり、1食で120グラム以上の野菜が摂れるメニューを提供したりする試み。武井課長は「こうした全国の好事例を参考にしながら、次の健康づくり政策をより充実させていく。これから、いろいろな形で情報提供していきたい」と話した。

改正健康増進法に盛り込まれた受動喫煙対策についても触れた。対策の基本的な考え方は「望まない受動喫煙をなくす」「受動喫煙による健康影響が大きい子ども、患者等に特に配慮」「施設の類型・場所ごとに対策を実施」の3点で、施行は3段階に分ける。第1段階は国・地方公共団体の責務として制度の周知徹底を図るもので、既に今年1月24日に施行された。第2段階の施行は7月1日で、学校・病院・児童福祉施設や行政機関において受動喫煙対策を進める。第3段階は来年の4月1日で、それ以外の飲食店などの施設において全面施行となる。(たばこ対策の詳細を記したQ&Aは、中央会議後の4月26日に公表された)

最後に武井課長は、「今までの施策を包括的に統合していくことが今後は重要になってくる。統括保健師には、ぜひ総合的、包括的な視点から取り組んでいただきたい」と話した。

地域における保健活動の推進に向けて

加藤典子健康課保健指導室長は地方公共団体の保健師数、統括的な役割の保健師の状況、保健師の人材育成体制の構築などについて説明した。

■地方公共団体の保健師数
「平成30年度保健師活動領域調査」によれば、地方自治体の常勤保健師数は平成30年度に35,088人で前年度から566人増えた。一方、非常勤保健師を常勤換算した勤務日数は平成30年度に523,748人日で、10年前と比べると倍増している。また、平成30年度の常勤保健師の活動項目別活動状況は、保健福祉事業、地区管理、業務管理、業務管理・事務、コーディネートの割合が高かった。

■統括的な役割の保健師
同調査によると、平成30年度の統括的な役割の保健師の配置状況は、都道府県100%、保健所設置市77.5%、特別区47.8%、市町村51.8%で、市町村での配置は進んでいないものの、若干増加傾向にあった。また市町村の統括保健師の配置状況は都道府県による差が大きく、100%の都道府県が2(滋賀県、和歌山県)ある一方、20都道府県は50%を切った。

今年3月には保健師活動領域調査とは別に、保健指導室が「統括的な役割を担う保健師に関する調査」を実施している。それによると、保健所設置市と特別区では107自治体中「配置あり」が77(72.0%)、「配置予定あり」が7(6.5%)、「配置なし」が23(21.5%)だった。統括保健師の職位別・施設別配置状況をみると、都道府県では本庁・保健部門の配置で課長級が最も多く、保健所設置市・特別区では保健所の企画調製部門の配置で課長級が最も多かった。保健活動における統括の範囲(全体統括型、他課横断型、自所属型)では、都道府県、保健所設置市・特別区ともに組織全体を統括している全体統括型が最も多かった。

統括保健師が統括している範囲では、保健活動よりも人材育成・人材確保のほうが組織全体を統括している割合が高いという結果だった。保健師の保健活動の組織横断的な総合調整および推進に関する取り組み状況をみると、都道府県、保健所設置市・特別区ともに「情報に基づく必要な対応の検討」が最も多く、次いで「保健医療福祉計画の把握」「潜在化している健康問題への対応の検討」「課題に対する指導・助言」の順で、いずれの項目も6割以上が実施していた。

■保健師の人材育成体制の構築
「統括的な役割を担う保健師に関する調査」によると、保健師のキャリアラダーを作成済みの都道府県は61.7%、保健所設置市・特別区は37.7%だった。作成中は都道府県4.3%、保健所設置市・特別区26.0%、作成予定は都道府県21.3%、保健所設置市・特別区14.3%だった。保健師育成指針の策定状況は、策定済みの都道府県が68.1%、保健所設置市・特別区が64.9%だった。

人材育成上の課題を明確化するために統括保健師として取り組んでいることとしては、都道府県、保健所設置市・特別区ともに「保健師の年齢」「経験年数」「経験部署」「国の動向」が8割以上を占めた。また、人材育成のための統括保健師の取り組みでは、都道府県、保健所設置市・特別区ともに「計画的な研修受講の調整」をしている自治体は8割以上あった。一方で、「ジョブローテーションの計画」「国や自治体との人事交流の計画」は低く、加藤室長は「ジョブローテーションや国や自治体との人事交流による人材育成をお願いしたい」と求めた。

厚生労働省では、今年度から人材育成については都道府県が主体となって研修会を実施するよう求めている。しかし、昨年11月の調査では研修体制が整っていないところが多いことが分かった。そうしたことから、今年度は地域保健総合推進事業の中で、体制が整っているところを中心に5県程度を選定して研修を支援し人材育成を進めていくという。また、今年度の市町村保健師管理者能力育成研修は神奈川県と福岡県で開催する。

講演1 市町村保健師の人材育成体制の構築支援について

公立大学法人大分県立看護科学大学学長・理事長の村嶋幸代氏は日本看護協会が実施した「平成30年度厚生労働省先駆的保健活動交流推進事業 自治体保健師のキャリア形成支援事業」報告書を中心に講演した。

平成26~27年の「保健師に係る研修のあり方等に関する検討会」の最終取りまとめには、保健師のキャリアラダーとキャリアパスの必要性とともに、人材育成における都道府県の市町村支援の重要性が明記された。これを受け、平成29年度と30年度には日本看護協会が厚労省保健指導室からの委託で、山形・山梨・兵庫・熊本の4県の協力のもと「自治体保健師のキャリア形成支援事業」を実施している。

同事業の報告書では、市町村保健師の人材育成体制構築の(市町村側の)プロセスを準備から評価・フィードバックまでのPDCAサイクルで示した。プロセスは、①人材育成体制の構築のための準備②人材育成計画策定に関する組織内の理解と合意形成③組織全体の人材育成に関する実態把握と課題の整理④個々の保健師の能力の明確化と共有⑤能力獲得に向けた人材育成計画の策定⑥能力獲得に向けた人材育成計画の実施⑦人材育成体制の評価とフィードバック――の7段階。

さらに各プロセスに対して、都道府県(保健所)保健師が管内市町村の人材育成計画策定を支援する際のポイントをまとめた。例えば、市町村側のプロセス①「人材育成体制の構築のための準備」では、「国、都道府県の方針を理解する」「自組織の人材育成に関する構築について必要性を理解する」などの作業があり、それに対応する都道府県の支援としては「都道府県計画策定のため、圏域全体の保健活動や職員配置状況の現状把握、組織診断、評価を実施」などがある。

報告書には、市町村保健師の人材育成に関わる関係機関の役割も明記した。都道府県本庁の役割は「統括的な役割を担い、人材確保や人材育成等の計画を策定し、関係者・関係機関と調整、推進する役割を担う」こと、都道府県保健所は「国・都道府県本庁の方針を理解し、管内市町村の方針や人材育成支援ニーズを把握し、市長村特性に合わせた体制を構築、推進する役割を担う」ことなどとしている。また、都道府県看護協会や教育機関の役割は「都道府県・市町村が行う人材育成の協議・検討に積極的に参画し、研修などの企画・実施・評価を支援する役割を担う」ことなどを想定している。

講演2 市町村保健師管理者能力育成に関する研修について

国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部主任研究官の成木弘子氏は、市町村保健師管理者能力育成の状況と今年3月に公表された「都道府県の為の『市町村保健師管理者能力育成研修ガイドライン』」について講演した。

最初に市町村保健師の管理者能力育成の状況について触れた。近年、市町村では取り組むべき健康課題が複雑化・多様化するとともに保健師活動も多岐にわたり、管理的立場にある保健師の育成体制強化が求められている。しかし、管理期の保健師に対する研修は新任期の6分の1程度、研修日数も半日が約半数、1日が約3割であり、中身も能力育成の研修は少ないのが実情だという。そうした中で、平成28年の「保健師に係る研修のあり方等に関する検討会」の最終取りまとめ以降、都道府県による計画的・継続的な人材育成支援が重視されるようになり、今年度からは従来国が行っていた市町村保健師管理者能力育成研修を都道府県が主体となって実施することが期待されている。

次に「都道府県の為の『市町村保健師管理者能力育成研修ガイドライン』」について説明した。ガイドラインは平成29~30年度に実施された厚生労働科学研究(健康安全・危機管理対策総合研究事業)「管理的立場にある市町村の保健師の人材育成に関する研究」の成果としてまとめられた。平成29、30年度にプレ管理期(係長級以上)から管理期(課長補佐級以下)を対象として、5県でモデル研修を実施し、その結果を反映させている。平成30年度のモデル研修では、管理的立場の保健師に求められる28項目の到達目標の約9割に効果が認められたという。

ガイドラインの構成は第1章「市町村保健師管理者能力育成研修ガイドラインの基本的な考え方」、第2章「市町村保健師管理者能力育成研修の概要(目的、対象、日数、プログラム、工程など)、第3章「市町村保健師管理者能力育成研修の進め方」(計画〈P〉、実施〈D〉、評価〈C〉、計画の見直しおよび次年度の計画〈A〉)となっており、資料集や分析ツールを収めたCDが付いている。今年度は5都道府県程度を選定して研修を実施、ガイドラインの課題を確認後、結果を踏まえてガイドラインの改訂版を開発するという。

成木氏は「ガイドラインが市町村保健師管理者の能力向上に寄与し、自治体の保健師研修の企画立案に活用されることを期待している」と話した。

講演3 地域特性を踏まえた保健活動推進のための取組について

聖路加国際大学大学院看護学研究科教授の麻原きよみ氏は、平成28~30年度に実施された厚生労働科学研究(健康安全・危機管理対策総合研究事業)「地域特性に応じた保健活動推進ガイドラインの開発」を中心に、地域特性を踏まえた保健活動について講演した。

研究では、52自治体の保健師721人の地域づくりに関する質問紙調査を行った。その結果、地域づくりの方法としては、「住民の声を聞く努力をしている」「地域/地区の特性(暮らし、文化、風習)を考えて活動している」「個人への支援を地域/地区活動に発展させている」など、ただ地域に出るのではなく、地区を意識した活動を重視していることが明らかになった。こうした活動のあり方は、地域や住民への愛着や一体感の形成につながり、「保健師である」という職業意識を高めるなど、保健師の認識面にも影響を及ぼしていた。

所属組織の方針として地域づくりを明確にしたり、地域に関する情報共有の機会を設けたりすることが、地域づくりの促進につながっていることも分かった。また、活動体制別に地域づくりの有無を調べたところ、「地区担当制」「地区担当制と業務担当制の併用」「業務担当制(地区割あり)」は当然のことながら地域づくりの割合が高かったが、「業務担当制(地区割なし)」でも約半数が地域づくりを行っていた。麻原氏は「地区担当制、業務担当制(地区割あり)という地域に出向くことができる環境であることが望ましいが、活動体制にかかわらず地域づくりは行うことができる」と強調した。

また、研究の中で麻原氏らは、保健師が地域特性に応じた保健活動を実践する際に活用できるツール「地区活動カルテ」を作成した。これはフェイスシート、日々の記録、サマリーシートから構成される。フェイスシートでは地区診断に関することを記入し、日々の記録では地域との関連での「気づき」を記入する。それらを踏まえた上でサマリーシートには地区の強みや弱み、課題、課題への対応とその結果の評価などを記入する。

カルテを使った保健師からは「地区について自分が感じている印象が確証に変わった」「地区をみなさいと言われても何をみていいかわからなかったため、フェイスシートは地区をみる視点を与えてくれた」などの感想が聞かれたという。

最後に統括保健師について触れ、「統括保健師の地域づくりを促進する環境づくりが保健師の地域をみる視点を養い、地域づくりを行う可能性を高める。さらに保健師の道徳的姿勢や保健師のアイデンティティを育成することになる」と話し、その活躍に期待を寄せた。

シンポジウム 保健活動の推進、人材育成・人材確保の体制整備に関する統括保健師の組織横断的な取組

話題提供 効率的・効果的な保健活動の展開のための統括保健師への期待

国立保健医療科学院次長の曽根智史氏は、平成30年度地域保健総合推進事業「地方公共団体における効率的・効果的な保健活動の展開及び計画的な保健師の育成・確保について」の研究報告書を中心に講演した。

研究では保健所設置市・特別区を含む8市区の統括保健師に計画的な保健師育成や確保についてインタビューを実施し、その内容を分析して効率的・効果的な保健活動の展開に関する「留意点」を報告書にまとめている。報告書の編集方針として、読者対象を保健師に限定せず、連携する組織内外の多くの人たちの参考となるよう心掛けたという。

「留意点」は、市区町村保健師対象(表2)と統括保健師対象(表3)とに分け、それぞれ大項目、中項目、小項目に分類し、小項目では具体的な方法を記した。市区町村保健師の「留意点」はPDCAサイクルを回すときのポイントをまとめたもので、大項目は①地域の健康課題を把握する②所属行政組織で解決すべき健康課題の優先順位を決める③取り上げた健康課題について、住民や所属行政組織内での合意形成を図り、事業化を推進する④効果的な事業実施に向けた取組を行う⑤多角的な視点で評価を行い、継続する必要性や計画の見直し等、今後の展開を検討する――となっている。統括保健師の「留意点」の大項目は①円滑な保健活動を推進するために統括的な管理・調整をする②人材育成の課題を明確化し、課題を踏まえて人材育成をする③統括保健師の位置づけと役割が実施できる体制整備に自ら取り組む④災害発生時の統括保健師の役割を明確化し、発災に備えて当該自治体の体制整備に関与する――の4つ。そのうち③については「統括保健師には道を切り開いていただかなければいけないという思いを盛り込んだ」という。

曽根氏は、「市区町村保健師がPDCAサイクルを回すために、統括保健師が表3にあるような役割を果たし、効率的・効果的な保健活動を推進するエンジンになってほしい」と話した。その上で、「留意点に示したPDCAサイクルのプロセスも統括保健師の役割も、現場の保健事業を集約したもので基準、標準ということではない。表2、表3のエクセルファイルをダウンロードできるようにしたので、自分たちの状況に合うように手を加えて活用してほしい」と付け加えた。

事例発表1 保健師の人材育成・人材確保体制構築における統括保健師の役割

鳥取県福祉保健部健康医療局医療政策課医療人材確保室参事の坂本裕子氏は、統括保健師として取り組んできた保健師の人材育成・人材確保について説明した。鳥取県の人口は55万人と都道府県の中では最も少なく、2040年には44万人にまで減ると予想されている。一方、保健師数は県42名、市町村210名(2018年4月1日現在)で、特に市町村では増えているとし、「事務職が減る中で保健師が増えている。これは効果的・効率的に活動しないと、削減の対象になってしまう可能性があるということ」と話した。

人材育成の面では、県と市町村の保健師現任教育ガイドラインを平成24年度に策定したが、平成29年には改定作業に入った。しかし、新規採用のない自治体ではガイドラインの存在すら知らないところもあるなど、自治体間に温度差があったという。そこで、まず現任教育の実態を把握し、現場からの声をガイドラインの改定に反映させるよう、2年にわたり話し合いを重ねた。改定版は平成31年2月に完成し、その中で保健師の現任教育や人材育成は各自治体の責務であることを明記した。また研修体制は標準的なキャリアラダーに連動させるようにしたという。

保健師確保対策としては、県独自の「看護職員修学資金等貸付制度」を設けている。これは看護大学等を卒業後5年間、鳥取県内で保健師として従事した場合は、家庭の経済状況や成績などにかかわらず貸付金の返還を全額免除するというもの。かなりの優遇措置だが、これをもってしても保健師の確保状況は県保健師で5割、市町村の市部は約8割、中山間地で約4割にとどまった。そこで県内8町に、保健師確保に関する課題や取り組みについてヒアリングし、結果をまとめて県内の看護系大学へ過疎地域での臨地実習の継続や保健師希望者への就業支援などの申し入れをした。これにより看護職員就職ガイダンスで保健師就職相談コーナーが設置されたほか、保健師希望者に公務員試験対策のレクチャーをすることにもつながったという。

統括保健師については、県内で配置しているのは19市町村中11となっている(57.9%)。そこで県では、市町村統括保健師(次期含む)への支援として、市町村と県の保健師現任教育担当者を対象に連絡会を開くようになった。また、管理者研修・教育担当者研修・災害時保健活動研修を開催し、研修内容には保健師中央会議や国立保健医療科学院が主催する研修の伝達事項などを盛り込んでいる。平成30年には国立保健医療科学院「市町村保健師管理者能力育成研修」のモデル県として、保健師が管理者として施策・事業をどう進めるかについての研修を行った。この研修の成果について坂本氏は「統括・次期統括の保健師たちの横のつながりができて、仲間意識が醸成された。半年以上の長い研修だったが本当に受けてよかったと思っている」と評価した。

事例発表2 地区活動の展開における統括保健師の役割

熊本市健康福祉局福祉部部長の髙本佳代子氏は、冒頭で「国保医療費や要介護認定者数の増加を背景に保健師への期待が高まり、本庁の保健師には効果的・効率的な企画立案が求められている」と保健師の人材育成が要請される背景に触れた。その上で、熊本市の地区活動の事例を紹介しつつ、自身の統括保健師としての働きについて語った。

熊本市は人口74万の政令指定都市。保健師数は約140人で、政令指定都市の中でも上から4番目に多い。保健師体制は地区担当制と業務分担制の混合型で、若いときに地区担当を経験し、その後業務担当を経験するようになっている。統括保健師は健康福祉局の健康づくり推進課の事務分掌に位置づけられている。

かつて熊本市はCKD患者が多かった、そうした中で、ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチを組み合わせた対策に乗り出した。その結果、全国で患者数が増加するのとは反対に、患者が減少に転じたという。市は1小学校区1保健師制で、小学校単位の健康づくりと地域包括ケアシステムの構築を一体的に進めている。さらに、ここにヘルスプロモーションと、近年話題になっているSDGsや地域共生社会も重ねている。

髙本氏は統括保健師の役割について、「地域の課題が複雑化する中、限られた人材で対応しなければならない。今以上に効果的・効率的な施策展開をしなくてならず、エビデンスを大切に専門家として提言していくことが求められる」と話した。そして、「見えないものは評価されない。保健師は黒子という呪縛から解き放たれる必要がある」と付け加えた。

事例発表3 保健活動推進のための組織横断的な取組における統括保健師の役割

豊田市保健部保健担当専門監の柴川ゆかり氏は、市町村合併後の組織改変から説明を始めた。豊田市の人口は約40万人、保健師数は85人(平成31年4月)。平成17年に近隣6町村と合併し、平成22年度に「保健福祉体制見直し検討会」が発足、保健師を含めた福祉保健部全体を見直す中で、業務分担制や地区担当制などについても検討した。柴川氏はここに検討会を担う保健師の総括という立場で関わった。

検討会での意見を集約したところ、業務分担制が事務遂行の上では効率的な半面、地域全体を見る視点を弱体化させたこと、保健師全体の交流や人材育成が不十分であることなど、保健活動の問題点が浮かび上がった。そして、こうした課題や組織体制を考えるには統括的な立場の保健師が必要であると考えるに至り、平成24年度厚生労働省「先駆的保健活動交流推進事業」への参加を決めたという。

同事業では保健師が配属されている10課ごとに業務内容と活動時間を記入する「業務チャート」を作成し、市の保健活動の実態を明らかにした。その結果、保健師の業務内容の54%を「事務」が占め、「専門業務」は46%であることが分かった。これを受けて、課内検討会や部署横断ミーティングで話し合いを重ね、保健事業の最適化に向けた課題と対応策を整理。地区担当制を取り入れた重層型組織体制への変更と統括保健師の設置につながった。

組織改編により、地区担当保健師の配置促進、地域会議などの非定型業務の保障、地域診断の業務への位置付けなどが進んだ。なによりも、保健師の担当地区への責任意識が高揚したという。

さらに、市では組織横断的な連携強化を図るための「地区診断検討会」を設置。そこで各課がデータを提供し情報交換することで、課同士のコラボ事業やデータ分析なども進んだ。統括保健師は検討会の議長を務めたほか、設置要綱の作成や学識経験者への参加依頼などを手掛けた。

柴川氏によれば、地区担当制を導入することで間接業務が減り、家庭訪問などの直接業務を増やすことにつながったという。また、住民の健康づくりの機運が高まり、住民主体の活動が増え、PDCAサイクルによる地域の健康づくりが定着するなどの効果も表れた。

最後に柴川氏は「統括保健師は保健師が働きやすい環境をつくることが重要。その結果を見せることで統括保健師の有用性が期待されることにつながる」と話した。

グループワーク 保健活動の成果から明らかになった課題への指導・助言に関する取組 ~統括保健師として組織横断的な観点から~

グループワークでは、自治医科大学看護学部学部長の春山早苗氏がコーディネーターを務め、都道府県、政令指定都市、中核市、特別区ごとのグループに分かれ、統括保健師としての取り組みを話し合った。終了後に各グループがディスカッションの内容を発表し、春山氏と曽根氏が講評を行った。

■グループワークの発表
特別区のグループからは「統括が保健師活動のビジョンを定め、これを全保健師で共有することで、個々の保健師が自分の活動を評価できるようになった」「保健師の活動の見える化事例集を作成し他の職種に配布することで保健師への理解が進むようになった」などの声が聞かれた。中核市のグループからは、「統括保健師は職位と求められる役割にギャップがある。横断的に調整するにはある程度の職責が必要で、管理職ではない場合は課長が一緒に動いてくれるような仕組みづくりが必要」「参加者の生の声を拾えるような研修体制の整備が重要」などの意見が出た。政令指定都市のグループの代表は、「自治体の政策目標を達成するためには保健師活動の中で何をすれば貢献できるのかを統括保健師が考えながら、各部署の保健師たちと情報共有して進めていくことが大事であることを話し合った」と発表した。都道府県のグループからは、自組織の課題への対応としては「分散配置されたそれぞれの現場の意見を取り入れつつ事業の優先順位を考えていく姿勢が必要」、市町村の支援については「県全体のデータと各市町村のデータを示し、これを事務職にも分かるように簡潔にまとめることが必要」などの意見が出た。

■講評
曽根氏は「皆さんの話の中にも出ていたが、統括が活躍している自治体では必ず周囲の専門職や事務職のサポートがある」と、周囲の協力の重要性を強調した。そして、そのためには「保健活動の活性化や問題提起につながっていくデータをまとめ、分かりやすく見せていく必要がある」とした。次世代の統括の育成についても触れ、「人材が限られている中で、優秀な次の統括を育てていくのは、皆さんの使命だ。10年、20年先に、全国の自治体に統括が配置されるのを目指してほしい」と話した。

春山氏は統括の役割として「自治体全体の方針や地域の健康課題、保健活動の目的や方向性を踏まえ、他の保健師にもそれを伝えてずれを生じさせないこと、組織的な合意を得るルートを確保すること」を強調した。また、視野を広げることが重要であるとし、「保健師活動だけでなく、国の動向や地域の特性、自治体の施策などの保健活動を俯瞰的に見て、将来のビジョンを示すことで、保健師全体のモチベーションを上げることにつながる」と話した。

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