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【レポート】厚労省、10年ぶりに腎疾患対策を見直し ~第1回腎疾患対策検討会~

12月14日、厚生労働省の「腎疾患対策検討会」の初会合が開かれた。2008(平成20)年3月に報告書「今後の腎疾患対策のあり方について」が出てから約10年。報告書の改訂を目指した議論が始まった。

CKD(慢性腎臓病)は死因の上位を占める心疾患や脳血管疾患の危険因子。人工透析になると患者のQOLは低下し、医療経済的にも社会負担が大きくなる。腎疾患の発症・重症化予防は喫緊の課題だ。厚生労働省は08(平成20)年3月に報告書「今後の腎疾患対策のあり方について」をまとめ、新規透析導入患者の減少などを目標に据え、取り組みを進めてきた。その結果、80歳未満において新規透析導入患者が減少するなど一定の成果を出しつつある。一方、かかりつけ医から腎臓病専門医への紹介基準の普及など課題は依然として残ったままだ。最近ではアルブミン尿の増加が見られないDKD (Disease Kidney Diabetic、糖尿病性腎臓病)の概念が注目されるなど、腎疾患対策を取り巻く状況も変わってきた。こうした状況を背景に、「腎疾患対策検討会」では今後の腎疾患対策のあり方について検討し、報告書の改訂を目指す。座長には柏原直樹氏(川崎医科大学副学長、腎臓・高血圧内科教授)が選ばれた。

腎疾患の現状を報告

参考人の守山敏樹氏(大阪大学キャンパスライフ健康支援センター・身体制御健康医学教授)は、腎疾患の現状を報告した。守山氏によると、わが国の慢性透析患者数は2015(平成27)年時点で324,986人となり、依然として増え続けている。導入患者数は09(平成21)年以降は横ばいだったが、15(平成27)年には39,462人となり初めて39,000人を超えた。これを詳しく見ると、増加傾向にあるのは男性80歳以上、女性85歳以上であり、年齢調整後には08(平成20)年以降は男女ともに透析患者数は減少していた。守山氏は「社会の高齢化が全体の透析患者数を押し上げた要因」と説明した。

透析導入に至る主要な原因疾患では、1998(平成10)年以降は糖尿病性腎症が第1位を占め、2015(平成27)年には透析患者の43.7%だった。一方、新規の透析導入患者に絞って見ると、糖尿病性腎症は12(平成24)年から減少に転じ、腎硬化症がじわじわと増え続け、慢性糸球体腎炎は減り続けているものの原因疾患の3割近くを占めた。糖尿病性腎症の透析導入が減ったことについて守山氏は「糖尿病医療の進歩、糖尿病医と腎臓病医の連携が図られている成果ではないか」との認識を示した。

CKDについては、eGFRが悪化するごとに心血管疾患発症率が高まること、心不全患者の7割にCKDが見られることなどを説明した。特定健診を元にしたデータで見ると、CKDは心血管死亡では喫煙や糖尿病よりもリスクが高く、高血圧に次ぐリスクだという。

守山氏は腎疾患の現状のまとめとして、①年齢調整後の透析導入患者数が減少②CKD患者は循環器系疾患発症リスクが非常に高くより多くの死亡に関連③糖尿病性腎症対策のみならず生活習慣病対策や難病対策との連携が必要――の3つに整理した。

これまでのCKD対策の取り組みを報告

次いで、これまでのCKD対策の取り組みが参考人と構成員から報告された。2008年の報告書には、今後のCKD対策として‣普及啓発‣地域における医療提供体制の整備‣診療水準の向上‣人材育成‣研究開発の推進――の5本柱が盛り込まれている。このうち「普及啓発」について守山氏は、地域差があり全体像が把握されていないことや、市民や医療関係者だけでなく行政への普及も進みつつあることを報告した。また、課題として、①好事例をさらに広げる必要がある②地域の実情に応じてより効果的・効率的な普及啓発活動が必要③対象に応じた普及啓発内容の指針が存在しない④活動の効果の評価がなされていない――の4点を挙げた。

参考人の岡田浩一氏(埼玉医科大学医学部腎臓内科教授)は、「地域における医療提供体制の整備」「診断水準の向上」「人材育成」について報告した。「地域における医療提供体制の整備」では、かかりつけ医と専門医等との連携で透析導入患者を減少させている熊本市の例などを取り上げ、今後必要なこととして、かかりつけ医と専門医等への紹介基準の普及や健診からかかりつけ医への受診勧奨基準の普及などを挙げた。「診断水準の向上」については、かかりつけ医から専門医への紹介基準や健診後の受診勧奨基準が作成されたこと、糖尿病性腎症分類が改訂されCKD重症度分類との整合性が図られたこと、各種ガイド・ガイドラインが作成され腎臓専門医への普及は進んでいることなどを評価した。一方、ガイドラインの普及が十分ではないなどの課題も挙げた。「人材育成」については、日本腎臓学会が認定する腎臓病療養指導士のことを紹介した。腎臓病療養指導士は医療施設や地域におけるCKD療養指導の担い手であり、平成30年度から創設する。対象は看護師、管理栄養士、薬剤師の3職種で、能力としては「CKDの療養指導に関する職種横断的な基本知識および療養指導の実地経験を問う」としている。

「研究開発の推進」の報告の中で、構成員の南学正臣氏(東京大学大学院医学系研究科腎臓内科学・内分泌病態学教授)は、最近注目されている「糖尿病性腎臓病」について説明した。この名称が登場した背景には、糖尿病治療の向上や糖尿病患者の腎保護が進む一方で、タンパク尿を伴わないなど典型的な糖尿病性腎症ではない糖尿病の腎障害が増えていることがある。欧米では糖尿病性腎症を含む広い包括的な概念として、既にDKD(Diabetic Kidney Disease)という用語が使われている。わが国では今年、糖尿病学会と腎臓病学会がDKDに対して「糖尿病性腎臓病」という言葉を当てることを決めたという。

報告をもとに議論

議論の中で、川村孝氏(京都大学環境安全保健機構健康科学センター長)は、「予防という面では高血圧は病気というよりリスクファクター。その点、高血圧治療はproactive(前向き)で戦略的であり、透析医療はreactive(後ろ向き)といえる。その違いを踏まえ、この検討会で目指すのはproactiveなものだと思う」と持論を述べた。守山氏の報告で腎硬化症の漸増が指摘されたこともあり、議論では高血圧の予防と、その普及啓発における行政の役割も話題に上った。守山氏は「高血圧対策の中で減塩は永遠のテーマであり、それを一般住民に指導するのは行政の保健師」と強調した。

構成員の羽鳥裕氏(日本医師会常任理事)は、「小児への普及啓発が十分ではないため、学校教育の中にも盛り込むべき」と述べた。それを受けて構成員の馬場亨氏(全国腎臓病協議会会長)は、「全国腎臓病協議会ではここ2、3年、学校で子どもたちを対象にした啓発授業を実施しているが、終了後に感想文を親に見せるなど、親への啓発にもつながり非常に効果が大きい」と、学校保健における普及啓発の重要性を説いた。

次回検討会は来年の2月に開かれ、5、6月には新しい報告書がとりまとめられる予定だ。

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