地域保健ネットワーク

「地域保健ネットワーク」コーナーでは、保健・医療・福祉の専門家をはじめ、NPOや個性あふれる活動を展開する人など、地域保健を支える人たちを紹介しています。
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二田水 彩さんインタビュー/「ピープル」2023年11月号WEB版

看護職の活躍の場は限定されない。ニーズのあるところに飛び込み課題に向き合おう

現在、東京医科大学医学部看護学科の助教として教壇に立つ傍ら、一般社団法人Nurse for Nurse(以下、本文中はNfN)の理事を務める二田水彩さん。
NfNの活動の主な目的とは、時代や社会の変遷とともに多様化する看護職へのニーズや課題に目を向け、看護職のための看護職によるキャリア開発支援事業を展開することだ。NfNが設立されたのは2021年。まだ活動を始めて2年ということだが、二田水さんの自らの夢や希望とともに、NfNでの活動状況や関わりについて伺った。

【プロフィール】
二田水 彩(にたみず・あや)さん
東京都出身。慶應義塾大学看護医療学部を卒業し、看護師、保健師資格を取得。聖路加国際病院での臨床経験、JICA青年海外協力隊(ドミニカ共和国)、国際医療福祉大学成田看護学部を経て、現在は東京医科大学医学部看護学科(助教・国際看護学)。2021年、大学時代の同級生と共に一般社団法人Nurse for Nurseを設立し、理事を務める。

[取材・文:白井美樹(ライター)・写真:豊田哲也]

大学の説明会で看護師の仕事には広がりがあることを知る

大学進学を目の前にし、進路に迷っていたとき、二田水さんは「看護の仕事って面白そうだな」と思ったという。
二田水さんのお母さんはかつては看護師をしていたが、直接働いている姿をみたことはなかったため「その姿に憧れて」ということはなかったそうだ。二田水さんが面白そうと思った理由はほかにある。大学の説明会を回ったり、パンフレットを見たりする中で、看護師の仕事の可能性の広がりについて感じ取ったことが大きかったと語った。

「一般に看護師の仕事というと、病院で患者さんのケアをするイメージが大きいと思います。でもそれに限らず、人の健康を守るという点で、いろいろなところでニーズがあることを進路選択の過程で見聞きすることができました。初めから病院に勤務すると決めず、大学で学んだり経験したりしながら、看護職の可能性について考えていけばいいのだと思うと、そこに大きな魅力を感じましたし、興味が湧いてきたのです」

初めてのアジア旅行で貧富の差を目の当たりにする

そして、慶応義塾大学の看護医療学部に入学。卒業するまでの間に、幅広い視点で看護を学ぶことができたという。その中で、二田水さんが考えるようになったのが「途上国で働いてみたい」ということだった。そんな思いを抱いたきっかけは、初めての海外旅行だった。タッチフットボールのサークル活動で出会った友人に誘われて東南アジアに行った際に、看護、医療、保健というジャンルで得たものが活かせるのではないかと思ったという。

「バックパッカーのまねごとみたいな感じで、シンガポール、マレーシア、タイを巡りました。2000年代の初め頃だったので、タイのバンコクなどはすでに発展していましたが、観光地からちょっと離れた場所に行くと、ストリートチルドレンなどを見かけることもあり、貧富の差を目のあたりにしました。日本でぬくぬくと過ごしていた自分としては、ショックもありましたし、印象深い思い出となりました」

聖路加国際病院に就職。看護師としての大切なことを学ぶ

二田水さんは卒業すると、まずは看護師としての経験を積むため聖路加国際病院に勤務した。なぜその職場を選んだのか尋ねると「当時、いろいろな人が『聖路加の看護は素晴らしい』とよく言っているのを聞き、何がどう素晴らしいのか知りたいと思った」とのことだ。二田水さんは聖路加国際病院での4年間の勤務で、多くのことを学び取ったようだ。
「実際に働いてみると、自分もこうなりたいと思えるような先輩がたくさんいましたね。患者さんってともすると、我慢したり遠慮したりする方も多いですし、本当の気持ちを伝えてもらうには信頼関係も必要です。そのようなニーズを最大限に汲み取り、それをチームのみんなや医師と共有しながら看護をしていました。私も、そういう看護をしていきたいなと思えたのです」

青年海外協力隊に参加しドミニカ共和国で過ごす

聖路加国際病院での看護師経験を積んだ後、次に二田水さんが身を置いたのは、海外ボランティアの現場だった。大学卒業時から「ある程度経験を積んだら海外で仕事をしたい」という変わらぬ思いがあったため、JICA(独立行政法人 国際協力機構)の青年海外協力隊のメンバーとなり、2年間ドミニカ共和国に赴任したのだ。

「私が行ったところは、あまり目立った産業もなく、貧しい地域でした。近年観光業が栄えてきて経済的に上向きになっていたとはいえ、まだまだ乳幼児や妊産婦の死亡率が高く、JICAの母子保健強化プロジェクトが行われていたのです。そこで私は妊婦健診や乳幼児の予防接種の推進活動などの地域保健活動に取り組みました。要請された職種は看護師ではありましたが、昔学んだ保健師の知識を引っ張り出しながら、現地のスタッフとともに働いたのです」

二田水さんが、現地で暮らして心を痛めたのは、貧しさや学習の機会が不十分なために適切な医療を受けられない人が大勢いるということだった。日本であればコントロールできるような病気でも死に至ってしまう。もっと国際協力が必要であることを、そのとき痛感したという。

「本来なら、誰もが健康で長く楽しく生きていきたいはず。そのための選択肢をたくさん持てるということが、一つの幸せなのではないかと思いました。滞在自体は楽しい思い出もたくさんありましたが、約束の2年間が終わるときには、もっとここで地域住民の役に立てることがあったのではないか、と後ろ髪を引かれるような気持ちが正直ありましたね」

帰国後進路に迷い、震災後の東北地方で支援活動

二田水さんがドミニカから帰国したのは、2011年の6月だった。進学するか就職するか決めきれずにいたが、まだまだ東日本大震災で被災地の混乱が続いていたとき、「自分にできることは何かないか」と思い、東北地方で看護師のボランティアをすることにしたそうだ。
その間も、ドミニカで過ごす日々で、知識や技術において日本の看護は素晴らしいと感じたことを思い返し、もう少し看護師としての実践力を高めようと決めた。そして、ボランティアの仕事が一段落した後に、新たに縁のあった病院に就職した。

「でも、病院に勤務しながらも、国際看護への思いは常にありましたね。夏休みを利用して、ドミニカを再訪したりしていました」

そうした中で、本格的に国際看護に取り組むには、より専門的な知識が必要だと考えるようになり、聖路加国際大学の修士課程に進学。その後、国際医療福祉大学成田看護学部の立ち上げにも携わり、教職の道へと進むことになった。

大学時代の旧友からNfN立ち上げの話を持ちかけられる

NfN立ち上げの話を聞いたのは、2021年の初め、二田水さんが大学院博士後期課程に在籍していたときだった。大学の同級生であり、タッチフットボールのサークル時代から一緒に過ごした門元記子さん(現NfN代表理事)から、「看護職同士が助け合って、キャリア開発の支援をするプラットホームを作らないか」と誘われたことから始まった。

「確かに、私自身の経験の中でも海外ボランティアから帰ってきたときにも、『この先どうしよう』と悩み、いろいろな人の話を聞きたかったけれど、自分の知り合いだけだと限界を感じたことがありました。そういう場合、分野横断的に看護職のつながりがあったら、よりよい選択ができるのではないかと考えたのです。また、何か新しいことを始めようとした人が、何もないところから考えていくのではなく、多くの人の知識と経験を結び付けながらの方が、よりスピーディーに取り組んでいけるはずです。そう考えると、ぜひ一緒にその活動をやりたいなと思ったのです」

NfN立ち上げ後、初めて3人で対面した時の様子。(写真左から、川添さん、門元さん、二田水さん)

代表理事の門元さんは海外に住んでいるので、NfNの立ち上げ前にはもう一人の同級生、川添高志さん(現NfN理事)と週に1~2回オンラインミーティングで細かいやりとりを行った。そして、立ち上げた後にもWebサイトを整えたり、会員サイトを作ったりして、準備には半年以上を費やした。2022年の6月にやっとWebサイト上で会員登録ができるようになり、いろいろな人に呼びかけた結果、現在は徐々に会員が増えてきているという。ちなみに、会員の条件は、保健師・助産師・看護師といった「看護職」の免許保有者が挙げられている。

社会課題の解決を目指したNfNの活動と今後の挑戦

「NfNは看護職のキャリア開発支援を通してローカルおよびグローバルな課題解決を目指しています。その取り組みの一つとして、地域で暮らす医療的ケア児・重症心身障害児等(以下、医ケア児等)の暮らしを支える看護職を増やすことを目指した事業を行っています。これは医療的ケア児・重症心身障害児の親の会から始まった団体(NPO法人みかんぐみ)の委託を受け実施しているもので、昨年度は全国から募集した看護職に対して医ケア児等の生活の場(ご自宅)を見学し理解を深めることを目的とした『見学プログラム』を行いました。このプログラムの一環で、当事者ご家族と看護職が交流できる場を設けたのですが、普段訪問看護などでお互いに関わる場面があったとしても、利害関係もあるためなかなか本音での話をする機会が少ないことが分かりました。プログラムには、行政保健師、訪問看護ステーション管理者、小児病棟に勤務していた看護師などさまざまな背景を持つ看護職にご参加いただきましたが、日頃直接関わってないからこその本音を聞けたりして、いろいろな発見があり、相互理解につながるとても有意義な機会となりました」

杉並区にあるNPO法人みかんぐみから見学プログラムの委託を受けた。
みかんぐみの情報が掲載された本誌バックナンバーを手に取る二田水さん

NfNの活動としてはそのほかにも、セミナーや看護職同士の交流会などを開催し、看護職一人一人がキャリアについて新たな視点を得られるようなつながりづくりのサポートを行っているという。では、今後はどのような活動をしていきたいと考えているのだろうか。

「挑戦したいことの一つとして、若手看護職を対象とした『リーダーシッププログラム』を作っていきたいと考えています。現場では20代からリーダーシップを求められる状況がよくありますが、あまりリーダーシップを学ぶ機会もないまま、手探り状態で頑張っている人を多く見受けます。また、保健師さんでも、若くから開業して、地域に根ざして活動をしている人もいます。何か新しいことを始めるときに、周りの人を巻き込みながら自分たちの目指すものに向かっていくには、リーダーシップスキルが必要となってくるので、そうした力を養えるようなプログラムを提供できればいいと思っています」

ニーズのあるところへ飛び込んでいき課題と向き合って欲しい

最後にこれを読んでいる看護職の人たちへの思いを語ってもらった。

「私自身いまの職に就いたのは、看護師は病院の中だけの仕事ではないというところに魅力を感じたからです。でも、世の中的には、まだまだ病院で患者さんのお世話をするのが看護師だと思われていますよね。保健師さんも、保健所や保健センターで仕事をする人という限られたイメージを持たれがちなのではないでしょうか。確かにそうした現場で働いている人も多いですが、キャリアを生かせる場はもっと広がってきているということを伝えていきたいです。
特に、いまはいろいろな病気や障害を持って地域で暮らす人がどんどん増えていて、さまざまな場所で看護職のニーズが高まっています。そういうニーズがあるところへどんどん自分から飛び込んでいき、課題と向き合っていく人が増えるといいなと思っています」

一般社団法人Nurse for Nurse 公式サイト
https://www.nursefornurse.org/

 Nurse for Nurseのイベント

2023年11月19日には広く全国のご家族および看護職・看護学生を対象としたイベントを開催予定です。NfNおよびNPO法人みかんぐみは、今後地域で子どもたちの暮らしを支える看護職が増えることを願い、本事業を実施しています。

---追記---
このイベントの実施報告は2023/12/4にNurse for Nurse公式サイトに掲載されました。
以下アドレスからご覧になれますのでご参照ください。
https://www.nursefornurse.org/post/120323

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