藤本さんの講演旅行記

web版 講演旅行記-20 通算第38回
埼玉県ふじみ野市

2023-04-27

本の方は、とうとう休刊になってしまった。連載していた「保健師のための閑話ケア」も、当然の事ながら、休みに入ってしまった。
ん? 休み?
2023年3月号がお手元にある方は、目次をご覧あれ。 終了した連載には「最終回」の文字があるのだが、「閑話ケア」には、何故か、それがないのだ。 本文上では「完」と書いたのだが、目次的には「最終回」じゃない事になる。
って事は、終わってないのかもしれない。
だいたい、この「講演旅行記」は、そもそも「閑話ケア」の中で書いていたものが、web上で独立した存在になったものだ。だから、これが存在するという事は「閑話ケア」も終了していない― という意味になるのかな。何だか、よくわからない話だが。
しかし、「旅行記だけでも読んでやるか」という方がどれだけいらっしゃるのだろうか?
ま、それでも、今後もアップしていくつもりではいる。 だが、それ以上に問題なのは、今後、「講演旅行」があるかないか、だ。
コロナ禍で、講演そのものの依頼が減ってしまっているし、本誌の休刊により、私の存在が世の中から忘れられていくだろうから、地元以外からの講演依頼が来る事があるのだろうか…。

おっと、グダグダ言っていても仕方ない。
2023年3月6日の月曜日、埼玉県ふじみ野市を訪れた話をしなければ。
去年の10月、同市の心理職のSさんから連絡が来た。同市では、ずいぶん前に要対協がらみの事案に助言者的に関わった事があるが、今回のご依頼は「地域保健」を読まれていて、との事。
なので、「講演旅行記」の対象となるわけだ。
だが、相談室から直線距離で言えば、おそらく10キロ程度しか離れていない。つまり、ご近所であり、私も何度となく行っている市。特に日本酒は同市の地酒専門店で買うので、半ば地元みたいな所だ。
困った。書く事があるだろうか…。依頼をいただいて最初の悩みが、これだった。
11月にはSさんとM保健師がいらして打ち合わせ。
コロナ禍で、夫の在宅が増えたりして、夫婦間のトラブルなどの問題が起きているというのが、ご依頼の理由らしく、そんな夫婦についての話を―というご依頼。
Sさんは正職員の心理職。市町村職員で心理職というのはあまり聞いた事がないのだが、確か、ふじみ野市には4人いらっしゃると聞いたような。なかなか先進的な市なのかもしれない。

3月6日。いよいよ当日である。
……。
とはいっても、実は「旅行記」として書く事がないのだ。
この日午前中は普通に仕事をして、午後に相談室を出た。

2階が私の相談室である。
現在、おそらく日本には1,000台も走っていない我が愛車に乗って出かけた。

30分足らずで会場のふじみ野市の複合施設フクトピア到着。
テーマは「気持ちが楽になる『夫婦のカタチ』の話」という事で、ま、いつものように話した。
そして、また相談室に戻った。
おしまい。

って、いくら何でもこれじゃぁねぇ(;^_^A
ふじみ野市には何も良い所がないみたいになってしまう。
そんな事はない。きっと何かあるだろう―と、10日後の平日休みの日に自転車でふじみ野市を回ってみる事にした。半ば番外編の「自転車日記」みたいだが。
自宅を出て、国道沿いの自転車道を走って、6キロほどでふじみ野市に入る。

このあたり、かなり大規模な造成工事(?)をしている。車だとさっと通り過ぎてしまうが、自転車でじっくり見ると、広大な土地に重機などが沢山。



ちょっと前までは田んぼだったような気がするが…。郊外の田畑が減って、食料自給率がどんどん下がる象徴のような風景だ。
もう少し進んでから、国道から左に階段を数段降りて、新河岸川(しんがしがわ)の右岸に。振り返ると国道がやけに貧弱に見えた。片側2車線の交通量の多い道なのに、田園風景の一部になっちゃった。

この辺はふじみ野市の端っこ。川の対岸は川越市である。
ここに来たのには訳がある。以前初めて自転車でここを通った時に見た冬枯れの景色が、わびさびの世界だったからだ。


春になってどんな感じかを見てみたかったのだ。

川を上流に向かって進む。河川敷ではゴルフのような事をやっていて、何だろうと思ったら、




だそうだ。

更に進む。自転車は降りて進むようにとの表示に従い、歩いて進む。
やはり、何とも良い感じの景色だ。




シジュウカラやカモ類の鳴き声はあるが、車の音などは聞こえない所。数人の散策者や、野草摘みをしている方もいた。
なかなかの田舎感がある所だが、実は、市役所などの中心部から1キロもない。
もう少し進むと、今度はこんな場所に出た。

そんなに広くはないが、いろいろな野草が植えられている。
現在、開花していたのは、


ユキワリソウ
こんな風に、表示板が添えられてあるので植物に弱い私にもわかる。



カタクリ



ショウジョウバカマ



シュンラン

といった感じだった。

川の少し上の方には「ふじみ野市立福岡河岸記念館」という古風な建物があった。



これは明治時代の回漕問屋「福田屋」の主屋、台所棟、文庫蔵、離れを文化遺産として保存公開しているものだそうだ。
回漕問屋というのは船を使って、人や物を運ぶ、まあ、運送業者みたいなもの。新河岸川は、江戸と川越を結ぶ重要な川。今でいえば幹線道路や鉄道みたいなもの。駅に当たる河岸が所々にあって、この近くには福岡河岸があったわけだ。
100円お支払いして、中を見物。




帳場。中から見ると、


番頭さんなどがここに座って、金銭のやり取り、取引の帳簿付けなどを行った場所だ。だから、ソロバンと大福帳が置かれている。大福のノート? いやいや取引記録の帳簿の事だ。



これもわかるかな? 台所です。正面のカマドで飯などを炊くわけだ。

帳場のすぐ横には、舟もあった。

興味深かったのは、この図。


大正3年の鉄道路線と川の関係が示されている。現在の東武東上線の前進が開通したのがこの年。
都内から、川越までの図だが、まったく寄り添うように伸びているではないか。河岸の名前が、現在も残っている地名が多くて地元の人間が見るとなかなか面白い。
しかし、こんな風に鉄道ができてしまっては、回漕の仕事は当然すたれる。が、実はこの福田屋の主人が、鉄道敷設に大きく貢献した人物なのだ。家業の保全よりも先々を見越したという事か。
ほど良い広さの庭も奇麗だった。




カンザクラが満開だった。

街も紹介しておこう。


上福岡(かみふくおか)駅東口。これがふじみ野市の中心の駅と言って良かろう。ふじみ野駅もあるのだが、これは随分と後からできた駅で、しかも、ふじみ野市の隣市の「富士見市」にある。
「ふじみ野市」と「富士見市」。似すぎた名前だが、そこにはオトナの事情がある。
ふじみ野市は2005年に上福岡市と大井町が合併してできた市。そもそもは、富士見市と三芳町を含めた4つの自治体の合併話だった。
合併後の名称を「ふじみ野市」にしようという話が出ていたらしく、それを見越して、先に「ふじみ野」駅ができたのだが、4市町の合併は合意に至らず、2つの自治体だけの合併になった。
が、当初の4自治体合併の時の名前の候補だった「ふじみ野」を新市の名称としてそのまま使ったため、こんな事になってしまった…。
なお、今回は訪れなかった上福岡駅の西口方面が旧、大井町である。



駅前通りはこんな感じ。街の中心を通る道ではない。街の中心を南北に延びる県道に出るための道といった感じで、中心の県道はこんな感じ。

右上に「フクトピア」という案内表示が見える。私が伺った時は、ここを通らなかったので、案内板に従って右折、少し先を左折したら、私が入ったのとは別の入り口があった。

思ったより大きな建物で、右後方に、ずっと続いている。

そして、やっと私が入った側の入り口があった。

当日、中を案内して頂いたのだが、これほど大きいとは気づかなかった。

車で通る時にいつも横目で見ていた「長宮氷川神社」にも立ち寄る。

そこには面白い図があった。


説明書きによれば、旧領主の、市ヶ谷の屋敷までの略図だそうだ。
市ヶ谷は新宿区と千代田区の境目あたりの、あの市ヶ谷だ。
地図の一部のアップがこちら。

現代人が見ても地元の人ならどこか想像がつく地名が連なっている。

なかなか味のある像もあった。題して「出会いの泉」。

奇稲田姫(くしなだひめ)と、建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)。



日本神話の有名人だから、説明は省略する。須佐之男命くらい、知ってるよね? 知らない?
知ってて欲しい(;^_^A 知らない方は自分で調べておきましょうね。
このすぐ近くには「市立上福岡歴史民俗資料館」というのもあって、立ち寄ったが、内部の写真は撮って良いかどうかわからず、撮らなかった。


土器から近世までのいろいろな展示があったが、ちょっと狭くて暗かったかな。

講演当日に旅をしたわけじゃないから、ちょっと強引な「旅行記」ではあったが、近所の良く知った土地でも、見ようとすれば、色々な発見があるという面白い体験だった。
旧大井町地区には立ち寄らなかったので、そちらの地区の方には申し訳ない。
私の印象では、旧大井地域は、農業が中心だが、川越街道の大井宿もあったので、人の往来はあったのだろう。機会があれば「大井郷土資料館」も訪ねてみたいと思っている。
さて、次はどこから、お声がかかるかな…。次があれば良いけれど……。
と、書き終わった直後に、新潟県から打診! 実現すると良いな♪

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