藤本さんの講演旅行記

web版 講演旅行記-4 通算第22回
茨城県水戸市・筑西市

2016-10-25

関東地方には一都六県ある。その中で、講演で未踏の地があった。茨城県である。個人的には水族館に行ったり、ゴルフに行ったり、何回か訪ねた事はあるが、ほとんどご縁がない。地図で見ると埼玉県の北東部に隣接しているのだが、私の生活域は茨城方面とは真逆の西南部に近い。
なので、個人的にもご縁が薄く、茨城と聞いて思い浮かぶものは、水戸の黄門様、納豆、梅、以上―といった感じだ。

今年の5月初旬、そんな茨城の、「茨城県精神保健協会」のIさんからお電話を頂いた。県内で精神に関する講演を開きたい自治体がその協会に申請すると、補助する―というような仕組みがあるらしくて、今回、筑西(ちくせい)市が名乗りを上げ、私に頼むように依頼があったという事。
時期は秋頃。これで関東地方制覇だな-なんて、どうでも良いことを思いながら、引き受ける方向でお返事をした。
5月下旬、Iさんから別件のメールが来た。「当協会では毎年会員向けに講演会を実施しており、本年も実施します。講演会は、8月8日(月)午後1時から茨城県総合福祉会館において実施する予定で、テーマは、支援者のメンタルヘルスを予定しております。」
で、私に講師をお願いしたい、と。
頭の中に情景が浮かんだ。毎年のようにやっている企画で、さて、今年は誰に頼もうかと考えていたIさん達。そこに、今まで聞いたこともないヤツへの講演依頼が筑西市から来た、へぇ、そんなヤツがいるのか、よし、じゃ、こっちも頼んじゃえ……。
ということでしょう、多分 ^_^;

というわけで、8月8日、車で水戸に向かう。水戸と言えば先にも言ったように黄門様、つまり徳川光圀(みつくに)や、偕楽園の梅などしか思いつかなかったのだが、もうひとつ、ステキな事を思い出した。

以前「地域保健」で母乳について書いた時にヤギのチーズについて触れた(2011年10月号)。そのエッセイがひょんな事からヤギの権威の先生の目に留まり、「全国山羊(ヤギ)ネットワーク」の会報に寄稿する事になった。その事は、2013年2月号の第1回講演旅行記の冒頭にも書いたのだが、その先生から送られてきたご著書に、水戸市立森林公園内でヤギのチーズを販売する「森のシェーブル館」という施設が作られた経緯が書かれていたのを思い出したのだ。
目的は決まった。いや、本当の目的は講演なのだが、馬の鼻先のニンジンの例えのようなもので、山羊のチーズを買いに行くついでに講演、と考えると、気持ちがとても軽くなったのだ。

言っておくが、私だって、人前で喋るのが大好きだから講演しているのではない。別にイヤではないが、講演料で生活しているわけじゃないから、講演が無くてもいいのだ。ただ、私なんかに頼もうという物好きなお方が何故かいらっしゃるので、お断りするのも余程の理由じゃないと申し訳ないから、引き受けているに過ぎない。
だから、本音を言えば、面倒だなぁ、遠いなぁ―と感じる事もある。
そこで、自分の中で目的をすり替えるのだ。行った事がない土地なら、どんな場所かな、どんな食べ物があるかな、どんな人にお会いできるかな―という具合に。観光などがメインの方が、楽しみにできるでしょう? 知らない土地に行って、ただ喋って帰って来るよりは、あれを見て、これを食べて、と考えた方が当然何倍も楽しくなる。だからこそ、「講演旅行」という事になるのだ。

しかし、今回は、悲劇が私を待っていた―。

高速を下り、水戸の森林公園に順調に向かう。天気は薄曇りだがやはり北関東に来たなって言う景色の中、無事に公園に辿り着き「森のシェーブル館」を発見。シェーブルとはフランス語でヤギのことである。
駐車場に車を停め、歩いてそこに近づくと…、無情にも「本日休館」の文字が―(;゜⊿゜)ノ
完全にリサーチ不足であった…。
せっかくぶら下げた馬の鼻先のニンジンが、一瞬にして消え、行く方向を見失った私は、このまま自分も消えてなくなるかと思ったが、気を取り直し、とりあえず市内中心部にある千波湖(せんばこ)に向かう。

市内の中心部にあるにしては、案外大きな湖。周りにはスマホを手にした多くの人がいる。そう、例の「ポケモンGO」なるゲームをしている人達のようだ。
そして、湖を見るかのように、徳川光圀(=水戸黄門)像が。

これ、実はヘンな像なのだ。テレビの黄門様と同じようにヒゲがあるのだが、江戸好きの私から見ると、これはあり得ない。家康が天下を治めるようになり、それまでの戦国の世のような荒々しさは否定され、ヒゲをはやす事は武士の間では基本的に無くなったのだ。4代将軍家綱以降は禁止令まで出されていたのだから、同じ時代に生きた光圀にヒゲがあるわけがない。
しかし、長い間、映画やテレビでヒゲの黄門様が定着した以上、きっとヒゲが無い像を作ったら、 「え~?! らしくな~い!」
ってな事になるのだろう。関係者の苦渋の決断が、背景にはありそうだ。

千波湖から10分程の茨城県総合福祉会館へ。今回の講演は2本立て。私の前に、筑波大学の精神医学の准教授で医学博士の根本清貴先生が「心の支援をするにあたって知っておきたい心の病気の基礎知識」という演題で話され、後半として、私が「支援者のメンタルヘルスについて」という題で話をした。まっとうな先生がプレゼンテーションソフトを使ってまっとうな話をなさった後に、私がどうでもいいような事を話す意味が、果たしてあったのかどうか、今でも疑問だが、ま、とりあえず終わった。
終わった後に、会場にみえていた筑西市の3人の保健師さんとお会いする。「あんなイイカゲンな講演なら、ウチはお断りします」と言われるかと思ったが、見逃してくれた。

9月15日、今度はバスと電車を乗り継いで、筑西市に向かう。自宅からJRの駅に向かうバスが渋滞にはまり、駅に着いてから、階段を猛ダッシュ。朝から大変な運動をしてしまった。大宮から宇都宮線で栃木県の小山(おやま)、そこから水戸線に乗って下館(しもだて)に向かう。筑西市は文字からして筑波山の西に位置していて、栃木県とも接している。平成の大合併で誕生した市で、旧、下館市が中心らしい。茨城県内よりも栃木県に働きに出ておられる方も多いとか。
駅前に「下館スピカ」という、もともとは商業的複合ビルがあるが、今はここに市役所の機能が次々と移転してきているらしく、今回のご依頼主の健康づくり課も、この中にあるが、まずは、その横を素通り。今回の「馬の鼻先のニンジン」は、「下館ラーメン」。水戸でお会いした保健師のNさん情報。それまでそういうのがある事も知らなかったが、その中の「盛昭軒」という店を訪ねる事にしたのだ。
その途中で、下羽黒(しもはぐろ)神社に参拝。正式には「羽黒神社」らしいが、なんでも、この周辺には7つの羽黒神社があるらしく、区別するためにそう呼ぶらしい。昔の城主が、城の守護として建立したとの事。

距離的にはたいした事はないのだが、かなり蒸し暑い日で、少しの坂を上って神社に到着しただけで疲れた。その後、程近い、お勧めのラーメン屋「盛昭軒」へ。
正午直前に到着したが、その時点で数名の地元のお年寄りのお客さん。本当に古くからあるその辺の町のラーメン屋という風情。で、普通の醤油ラーメンを注文。

本当に、普通の醤油ラーメン。あまりダシが強い感じではなく、濃口醤油の味が中心。子どもの頃に慣れ親しんだ東京のラーメンに近いか。クセが無いのが特徴とも言えるかもしれない。ワンタンメンも有名らしく、今度はそれを、と、あとで保健師さんに言われたが、さて、次に行く機会があるかどうか。

昼食後、また散策しながらスピカへ。健康づくり課を訪ね、会場の「県西生涯学習センター」までお連れ頂く。
今回のお題は「こころを軽くするセミナー『ストレスと上手につきあうコツ』」という事で、一般市民向けだが、精神保健福祉ボランティア養成講座の公開講座という位置づけでもある。始まるまでに時間があり、控室でずっと待っていても退屈なので、館内を探検。受付している所を覗いたら、水戸にも来ていたS保健師がいた。
「私も来場者になって講演聴くから、Sさんが私の代わりに喋ってよ。ヒゲ貸すから」
とザレゴトを言ったら、
「眼鏡も貸して下さい」
だと。眼鏡よりヒゲの方が貸すの大変なんですけど…。
控室には、精神保健協会のIさんもいらしていた。そして、ナント、ありがたい事に、
「今日来る前に水戸の『シェーブル館』に寄ってきましたよ」
と、チーズのお土産を頂いた!
水戸の講演の中でも、その日私が、どんなにガッカリしたかを話していたので、よほど気の毒に思って頂いたらしい。
後日頂戴したが、素晴らしいチーズであった。ヤギのチーズも臭みがうまく包み込まれているし、牛乳から作られているカマンベールも実に良い。発酵を止めていないから日が経つと発酵が進んで柔らかさが増し、少し鼻につんと来るようなアンモニア臭が出てくる。これくらいが一番美味いのだが、普通に売っているカマンベールは熱を加えて発酵を止めているので、私にしてみれば中途半端な物なのだ。いやいや、感動。

講演は、また何となく終わってしまって、終了後は「しもだて美術館」まで送って頂く。夕方から懇親会予定なので、それまでまた時間を潰すという事。

1階には立派な神輿(みこし)。この地には、「下館祇園まつり」なる祭りがあって、それに使うものらしい。先に訪れた羽黒神社の祭りらしいが、なぜ「祇園」と言うのか、は、調べたけど不明。

美術館の常設展のチケットを頂いたので見物。美術にはあまりご縁がないが、「黒川能」という山形の郷土芸能を描いたご当地出身の森田茂画伯の絵の迫力には感じ入った。
絵を見終わると、左右ガラス張りの廊下。

会場までの送迎をして下さったIさんは、お子さんと一緒にここを走ると空中を飛んでいるみたいで楽しいと言っていた。確かに楽しそうだが、私がそんな事をしていると通報されそうなのでガマンした。写真の左方向には筑波山。

美術館を出てからは、近くにある陶芸家の「板谷波山記念館」。作品の他に、作業場が残されていて、中に入ることができるのは良かった。
その後も更に散策は続く。蔵造りの町並みがあったり、古い薬師堂をみたり。

そして、やっと、懇親会場に。

「荒為(あらため)」というお店。なんでも、元は江戸時代末期か明治初期の商家の建物。そこに明治以降増築して行ったのが現在の姿という、国の登録有形文化財になっている料理屋だ。実に趣のある所で、こんな部屋もある。

外見も全景が見えれば良かったが、どの位置から見れば一番良く見えるのかがリサーチ不足で、良い写真が取れなかった。
8人の方々と懇親会。なかなか料理もしゃれている。皆さん車のため酒は私だけ。それが残念。私と同い年のT課長以下、講演先で出会った中ではおそらくまだ5人以内の男性保健師T君、栄養士のUさん、若手のSさんKさんなどと、またいつものようにどうでも良い話をして時間があっという間に過ぎる。Iwさんは古い時代の話とか、私と同じようなどうでも良い事をよくご存知であった。 時間を見て驚く。乗る予定の電車までもう10分! Tkさんの車で急いで駅まで送ってもらう。車を降りると、何故か先程まで店にいらしたD課長補佐が、先に改札前にいらっしゃるではないか?! どうも、瞬間移動のワザを身につけておられるらしい。懇親会中も、どことなくアヤシゲな方であったが、やっぱりそうかと思った。
Dさんに見送られながら改札を駆け抜け、跨線橋を走って渡って、何とか発車ベル直前に乗車。そういえば今朝も走ったなぁ、飲酒していてよくダッシュできたなぁ、階段で転んだりしていたら旅行記じゃなくて「講演転倒記」になるところだった―などと夜の水戸線で考えながら小山経由で帰路へ。帰宅後、スマホの万歩計は15,000歩程に達していた。

翌月の10月、なんと3月に続いて再び奄美大島に訪れる事になっていたが、台風接近のため中止となる。しかし、そこは奄美の担当者の執念。中止が決まってすぐに12月実施が決まる( ̄□ ̄;)!!
そのため、11月→北、12月→南、1月→北、2月→南…と、今後すさまじい移動距離が、私を待っている事になっている…。

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