地域保健アーカイブとは

本会は「平成27年度厚生労働科学研究 成育疾患克服等次世代育成基盤研究推進事業」の発表会である。

山梨大学の山縣然太朗さんからは、「健やか親子21」の最終評価・課題分析及び次期国民健康運動の推進に関する研究」の報告。本研究の目的は健やか親子21の最終評価のための調査や情報収集を行いつつ、次期計画のベースラインを検討しホームページや新たなデータベースの構築を図ることであった。
健やか親子21(第2次)では、日本全国どこで生まれても一定の質の母子保健サービスが受けられ、生命が守られ(健康格差の解消)、疾病や障害、経済状況等の個人や家庭環境の違いなど多様性を認識した母子保健サービスの展開し、ソーシャル・キャピタルの醸成やピアサポート等の形成を目指すとしている。

国立研究開発法人国立成育医療研究センターの横谷進さんからは、「今後の小児慢性特定疾患治療研究事業のあり方に関する研究」の報告。
昨年1月に改正された「小児慢性特定疾病対策」は、「医療費助成」「医療の質向上と疾患研究」「自立支援」の3つの柱でできている。今回の改正では14の疾患群、704の疾病数に見直しされた。医療意見書も疾病ごとに作成し、疾患の手引きもまとめた。そして自立の支援を行う事業が法定化されたことを説明した。

東北大学の呉繁夫さんからは「東日本大震災被災地の小児保健の関する調査研究」の報告。
災害時の小児保健医療の向上を目的とし、被災地の医療機関の復旧状態、乳幼児健診、メンタルヘルス、周産期医療等の調査を行った。これにより被災地3県の子どもは他地域に比べ過体重であり、アトピー性皮膚炎、ぜんそくの罹患率が高かった。子どもの問題行動の背景には、震災前のトラウマ体験が震災によって増強していること、親のメンタルヘルスや養育環境が影響していることなどが分かった。

東京大学の水口雅さんからは、「慢性疾患に罹患している児の社会生活支援ならびに療育生活支援に関する実態調査およびそれら施策の充実に関する研究」報告。
慢性疾患を持つ子どもの心理社会的状態の実態把握を行った上で、自立に向けてのモデル案、自立支援のための移行支援の小冊子を作成し小児科医に配布。自立支援施策の充実のための検討を行った。

(参考:平成27年度厚生労働科学研究成育疾患克服等次世代育成基盤研究推進事業資料)

地域の課題をキャッチして

私の仕事は常に目の前の人から始まる。健診で精密検査となっていた一人の介護者が過労死した。介護者が先に逝ってしまう現実をなくしたいという思いから、「在宅介護者の会」を立ち上げた。
さらに、脳卒中で片マヒになった50代の男性が、自分を知らない旅先では散歩ができても、元気な自分を知っている近所では散歩ができないと言っていた。同じ仲間と出会うこと、地域の人たちが彼の思いを知ること、そういう場をつくろうと「地域リハビリ交流会」は始まった。
また、公園にブルーテントが増えていく中で、路上で亡くなった人がいた。家がなくても大事な住民が、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利が奪われていることを黙ってみているわけにはいかない。「ホームレスの巡回訪問」はそういう必然から始まった。

憲法25条

30年近く前、県が主催した新人保健師研修会で、一人の県職員が語った言葉は、今でも私の仕事の基本になっている。
「私たち公務員は日本国憲法の実現を目指し、その中でも保健師は、憲法25条を基本に据えなければならない。民主主義国家における多数決の原則は大事ではあるが、ときに少数の意見が尊重されず、不幸な結果を招く場合もある。住民のいのちとくらしに寄り添う保健師は、そういう少数の人々の声なき声の代弁者とならねばならない。25条の『すべての国民』、さらに15条の『全体の奉仕者』とはそういうことである」と。

担当者の小さな疑問から

阿智村でのある事例を紹介する。
国保担当がレセプトを点検していたところ、必要な受診をしていない滞納のある人を見つけ出し、保健師に訪問の要請があった。訪問すると、トイレも風呂もない家に一人で何も食べず横たわっていた。すぐに生活保護を申請し医療に結び付け、支援が始まった。国保、生保、地域包括、住宅、税務、保健師がチームを組んでそれぞれの役割を果たしていった。その結果2年後には、病気も回復し、滞納もすべて完済して、生活保護から抜け出し、自立した生活が送れるまでに回復した。
小さな村だからできる連携かもしれないが、レセプトの点検から「おやっ?」と思った職員が、すぐに保健師につないでくれる、こういう信頼が私は何よりうれしい。レセプトは、住民一人一人の命を守るために使われてこそ価値があるものだ。私たち自治体に働く保健師は、今どこに向かおうとしているのだろう。

(阿智村役場保健師)

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