保健師を語る

「聴くこと、つなげること、小さなことを積み重ねる」
土屋厚子さん

土屋厚子さんは、県の保健師の立場からデータで地域を「見える化」することで、県内の市町の保健活動をバックアップしています。そんな土屋さんが語る保健師として大切にしていることとは。

2016-10-11

住民の思いの中に軸足を置く

最近、市町の統括保健師さんから、「地区分担にして、新任期や中堅期の保健師がすごく住民と接する機会が多くなったことで伸びてきて、楽しそうに仕事をしている。しかし、地区活動の育成(ソーシャルキャピタルの醸成)については個人差があり、とてもスムーズに行く人とうまくできない人がいる。どうしてなのでしょうか」という相談があった。同じような悩みは複数のところから聞いた。
 
私の経験から、あることが考えられた。保健師の活動指針には「みる、つなぐ、うごかす」とある。しかし、その前に「きく」ことがおろそかになっていないだろうか。「きく」というのは傾聴の「聴く」である。

業務が多忙の中で、保健師さんたちは、きちんと住民の声を聴けているのだろうか。地区分析をして、地区の健康課題を共有化して、活動を保健委員さんたちと活動していくときに、きちんと意見を聴いているのだろうか。住民の思いの中に軸足を置いて聴いているのだろか……。保健師として保健指導をがんばってやろうと思っていると、ついこの「きく」ことが落ちてしまう。そうすると、どんなに上手に統計資料やパワーポイントを作っても、住民の心の中には入っていかない。事業は住民の思いの中に軸足をしっかりと置くことでうまくいくのだ。

私は2008(平成10)年~10(平成12)年に実施した地域活動モデル事業の中で、多くのデータ分析をし、地域の健康課題を市町に提供したが、住民が持つ地域の健康課題の思いとの差があった。住民が健康課題の解決に向かって動き始めるのは、決まって専門職の意見と合致したときであった。

そのときの経験を生かし、12(平成24)年度から特定健診データの分析による地域の健康課題の「見える化」や、生活習慣改善のプログラムである「ふじ33プログラム」の普及などの健康プロジェクトを推進し、市町、企業、関係団体が一体となって取り組める仕組みを提供している。まだまだ活動が活発にはならない地域があるが、少しずつの変化を喜んでいる。

保健師の12か条

私が大事にしている保健師の12か条がある。これは岡山大学医学部の浜田淳先生が私へのインタビューをもとにまとめてくださったものである。東日本大震災で被災された保健師さんたちも、この12か条を手帳の中に入れ、「苦しくなったときは、この12カ条を読み返していると元気になる」と話してくれた。以下に紹介する。

土屋厚子 保健師の12カ条

1 専門職だから複雑に考える。しかし、伝えるときにはシンプルにメッセージを伝えよう。どう伝えるかを熟慮する。「いかに簡単にいいたいことが言えるか」が勝負。

2 「人」を知る。人を知ってネットワークをつくり、困った時に聞ける人をつくっておく。いい人に会って、いい話を聴く。これがいい仕事につながる。

3 仕事はたくさんある。優先順位を慎重に決める。休日に喫茶店にこもって構想を練る。ニュートラルになる時間をつくり出す。

4 普段からアイデアを仕込んでおく。しかし、アイデアはいつでも出せばいいというものではない。タイミングや状況(予算、人など)を考え、一番いいときに、ときには主婦の感覚でアイデアを出す。

5 仕事は一人でやるものではない。分からないときには詳しい人に聞いてしまう。失敗しても失敗を隠さない。隠すことでストレスをため込まない。

6 「人と人をつなぐ」ことを大切にする。SOSを発している保健師には土日にでも喫茶店で話を聴く。苦しかった経験は後で役立つ。

7 県の保健師は現場の保健師を輝かせるプロデューサー。現場の保健師を「見せる」工夫をする。現場の保健師の仕事ぶりを上司にささやき、上司から首長に伝えてもらう。

8 経験とノウハウを惜しみなく後輩に伝える。意欲のある人には「あなたおいで」とおせっかいに声掛けする。

9 保健師にもさまざまな職場があり、多様な視点がある。違った視点に触れることで、自分の中に複眼的な視点をつくる。いろんな経験をする、させることがみんなの財産になる。

10 仕事をすることはもちろん大事。しかし、仕事を評価する時間も持つようにしよう。

11 方法論を言語化する。「あの人だからできた」ではいけない。

12 何事もあんばいのよさを大切にする。

どれも特別なことではない。しかし、こうした小さなことの積み重ねが、あなたの保健師としての基盤を強くする。聴くこと、つなげること、そして普段のたゆまない積み重ねが、大きな花を咲かせることになる。

(静岡県健康福祉部健康増進課長)

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