保健師を語る

「仕事に丁寧に向き合えば、自分自身を育てることになる」
田川由美子さん

生粋の山形市民の田川由美子さんは、地元をこよなく愛するベテラン保健師。後輩を大勢率いる立場となったいま、地域の健康を守る保健師の育成に力を注いでいます。田川さんが語る保健師活動の核と後輩へ贈る言葉。

2016-07-12

東日本大震災での支援経験から

2011年の東日本大震災では多くの方々が山形市へ避難し、当市は一時、全国で最も避難者数が多い自治体となった。避難所には、水痘り患者、妊婦、介助を要する高齢者、精神科通院者なども入所したが、多くは健康被害のない自主避難者だった。やがて感染性胃腸炎が発生、さらに飲酒や防犯関係の問題も持ち上がった。だが、入院や施設入所などの対応により、感染症が流行することもなく、それ以上の大きな問題も起こらなかった。
避難所では「日常の生活を維持」するために、避難者も市民も支援者も、多くの人々が奮闘したのである。振り返ると、避難所は地域社会の縮図であった。

目立たない活動の中に大切なものがある

近年、さまざまな補助制度により国から具体的な方針・方法が示され、健康施策は自治体間競争に巻き込まれ、私などは息苦しく感じることも多い。市町村で働く保健師の多くは同じように感じているのではないか。また、マスコミ等で取り上げられるのは目新しい施策や先駆的な取り組みで、当たり前なこと、普通のことは見えにくく、評価されにくい。
一方、保健師が日々行う業務の積み重ねは、住民の「日常の生活を維持」することにつながっている。これは派手なことではなく、特に話題になることでもない。
しかし、この国が地道に取り組んできた母子保健や成人保健が社会全体の健康を向上させ、フィールドと個人を捉える視点を持って住民と公平公正に接する保健師の活動が、住民の基本的権利である健康の維持に貢献しているのは間違いないはずだ(私はこう書きながら、自分を励ましている)。

後輩保健師たちへ

保健師を取り巻く状況は厳しさを増している。壁にぶつかり、心が折れそうになることもあるだろう。そんな後輩たちに、私は次の言葉を贈りたいと思う。
どんな仕事でも、丁寧に向き合えば自分自身を育てることになる。そう信じて仕事に励んでほしい。対人援助を行う場合には、自らを表現するのが苦手な人の心の声を聴く感性を磨いてほしい。多様な価値観を受け止められる深い懐となるよう、自分の行動範囲を広げてみてほしい。そして、自分の仕事の核心を求め、悩んでほしい。

(山形市市民生活部健康課保健センター所長)

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