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第3回 人生100年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議

10月30日、厚生労働省の「人生100年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議」(座長=城内博日本大学理工学部特任教授)の第3回会合が開かれ、先進技術の紹介と取り組み事例の報告がなされた。

労働者の高年齢化が進む中、経済財政運営と改革の基本方針 2019や成長戦略実行計画で高齢者の労働災害防止、安全・健康の確保などが明記された。これを受け、有識者会議は高年齢労働者の安全と健康に関し幅広く検討することを目的に、今年の8月5日に設置された。高年齢労働者の特性に配慮した安全衛生教育や労働災害防止の安全対策、健康確保対策などについて検討し、年末までに4回の会合を持ちガイドライン案を取りまとめる。

この日は、3人の構成員から先進技術の紹介と取り組み事例の報告があった。植村佳代構成員(株式会社日本政策投資銀行業務企画部イノベーション推進室副調査役)は、IoTやAIなどを用いたテクノロジーのトレンドについて紹介した。今はデジタル革命の第三期にあたり、価値の重心がデータを生かしたサービスに移動しており、パワースーツなどのサイバーフィジカルシステム(CPS)が新たな産業を創出。2025年ころにはセンサーの紙への内蔵や人体への埋め込みが可能となり、家庭などで活躍するロボットも感情を持つようになってくるという。具体例としては、自動的に熱中症などを防いでくれるウェアラブル機器、メガネの横に付け視力の弱い人に目の前の文字を読み上げてくれる機器などを紹介した。

東祐二構成員(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)は、平成 29 年度介護ロボットを活用した介護技術開発支援モデル事業「排泄介護の各プロセスにおける効率的な支援を実現するための介護技術開発に関する検討」の結果を報告。600施設、3000人を対象に、排泄介護に特化して介護従事者に介助の負担感などを尋ねたところ、排泄介護の身体的負担を感じるものとしては、頻回なコールによる排泄介助・誘導、衣服・シーツを汚した場合の処置、トイレへの移乗、車椅子・ポータブルトイレへの移乗、おむついじりへの対応、おむつ交換などが多かったという。そこで移乗サポートロボットを導入、それまで介護者2人で実施していた移乗支援を可能な限り1人で実施することを試みた。それにより、移乗準備に時間はかかるものの、介助者の局所の筋負担が少ないことが示唆する結果が得られた。一方、介助者が高齢になるほど機器導入への心理的ブロックがあったことから、利用者の不安解消やリスクに対応するチームワークが重要であることが分かったという。

松葉斉構成員(中央労働災害防止協会健康快適推進部長)は、高年齢労働者の労働災害防止対策について、安全衛生教育や職場環境改善によるメンタルヘルスケア等の側面から報告。例として、定年になった高齢者を派遣する「株式会社 高齢者」の取り組みを紹介した。同社では高年齢労働者の就業教育として、①事故災害を防ぐための基本心得基礎教育②社会との関わりを持つことの大切さ③過去の経歴・肩書は忘れ、白紙で取り組む④身だしなみに注意⑤自分に合った仕事があるとは限らない――などを「これだけは理解してもらいたいこと」として伝えているという。また、職場環境改善によるメンタルヘルスケアとして、営業担当者のこまめな職場訪問などにより現場の状況を把握し、職場への不適応やメンタルヘルスの問題に対応しているほか、派遣先との情報交換会や懇親会なども積極的に開催し、それでも改善が図れない場合には契約を破棄するという。

議論では、河合雅司構成員(産経新聞社客員論説委員)が、「現業部門の労働災害防止も大事だが、これから高齢労働者が増えてくる状況に対して備える必要がある。(ホワイトカラーも含めた)高齢労働者の健康・安全対策も議論の対象とすべき」と指摘した。松田晋哉構成員(産業医科大学医学部公衆衛生学産業保健データサイエンスセンター教授)は、「アメリカではコミュニティカレッジで(退職後)継続的に新しい技術を地域で学べるが、日本は継続的に学ぶ場所がない。典型的なのがIT技術でパソコンが使えなければ中高年者の就職は厳しい。これからどういう所で高齢者が働くのかを考え、必要な技術を学ぶ場を整備し、その上でリスクを防ぐという流れではないか」と話した。

これらの指摘に対して労働基準局の村山誠安全衛生部長は「ご指摘いただいた、(高年齢労働者の安全と健康に関する)より幅広い点については、議論を深めてほしい。ただ、議論の軸になるのは命を失う、労働損失が起きてしまうというようなケースをどう防ぐか。そこを第一として押さえながら全体を深めていただければと思う」と話した。

次回は11月27日に開かれる予定。

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