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【レポート】地域共生社会の実現に向けた市町村における包括的な支援体制の整備に関する全国担当者会議

9月25日、厚生労働省の「地域共生社会の実現に向けた市町村における包括的な支援体制の整備に関する全国担当者会議」が開かれた。地域共生社会をテーマに取り上げた初の全国担当者会議であり、社会・援護局地域保健福祉課から行政説明などがあった。

地域共生社会に関するこれまでの動き

昨年6月に公表された「ニッポン一億総活躍プラン」では、子ども・高齢者・障害者など全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる「地域共生社会」の実現が掲げられた。翌7月には厚生労働大臣を本部長、同省部局長を本部員とする「『我が事・丸ごと』地域共生社会実現本部」が発足。地域共生社会の実現に向かって省を挙げて取り組む姿勢が打ち出され、ここから地域共生社会のキーワードとして「我が事・丸ごと」に注目が集まった。

10月からは本部の下の「地域における住民主体の課題解決力強化・相談支援体制の在り方に関する検討会(地域力強化検討会)」(座長=原田正樹日本福祉大学社会福祉学部社会福祉学科教授)で議論を開始。住民主体による地域の課題解決に向けた体制づくりなどについて検討を重ね、年末には中間とりまとめを公表した。それをもとに社会福祉法改正案(地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案)がまとめられた。改正法案は今年2月に国会に提出され、5月に可決・成立、6月には改正法交付となった。検討会の最終とりまとめは9月に公表されている。

地域福祉課長の挨拶

会議の冒頭の挨拶で社会・援護局地域福祉課の竹垣守課長は、「厚労省では制度分野ごとの縦割りや、支え手・受け手という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が我が事として生活し、人と人、人と資源が世代・分野を超えて丸ごとつながる、地域を共に創る『地域共生社会』の実現を基本コンセプトとして、改革を進めていく」と話した。来年4月から施行される改正社会福祉法はその第一弾。改正のポイントとして、「包括的な支援体制の整備を市町村の努力義務とする」「地域福祉計画を各分野の共通事項を記載した上位計画とし策定を努力義務とする」の2点を挙げた。

「包括的な支援体制」についての行政説明

生活困窮者自立支援室の本後健室長は主に「包括的な支援体制」について説明した。最初に、「地域包括ケアの流れの中で、地域丸ごとの福祉を進めようとしている自治体が増えているのを実感している」と述べ、包括的な支援体制と地域包括ケアと照らし合わせながら解説した。地域包括ケアは、狭義には高齢者の医療・介護・介護予防・住まい・生活支援を包括的に提供することにより住み慣れた所で暮らし続けられる地域をめざすものだが、同様の考え方は子ども・子育て分野、障害者分野などにも広がっている。一方、分野ごとの包括ケアが充実してくると、8050問題やダブルケアのように制度の狭間にある問題も浮かび上がってくる。既に生活困窮者自立支援のような分野横断的で包括的な支援もある。本後室長は「制度の狭間にある問題は相談先が明確でないと地域活動の中で踏み込めない。包括的な支援体制を社会福祉法に規定し整備することで、地域住民が課題を抱えた人や世帯の存在に『安心して気づく』ことができるようになる」と法に盛り込んだ意義を述べた。また、「土台にあるのは地域力であり、その上に地域包括ケアのような包括的な支援体制がある」と強調した。

次に、包括的な支援体制の担い手について説明した。改正社会福祉法の第4条では、福祉サービスを必要とする地域住民とその世帯が抱える地域生活課題(福祉・介護・介護予防・保健医療・住まい・就労・教育・孤立など)を地域住民等が「世帯丸ごと」「課題丸ごと」把握し、関係機関との連携により解決をはかる――と、地域共生社会の理念とともに地域住民等の役割を明記している。ここでいう「地域住民等」には社会福祉の事業経営者や社会福祉活動に従事する者も含まれており、さらに第6条では国と地方公共団体の責務を明らかにしている。本後室長は「我が事・丸ごとの議論の中で『行政の責任が後退しているのではいか』という指摘があるが法律上は違う。地域住民の取り組みと行政の取り組みが相まって、地域生活課題を把握し、連携により解決していく仕組みが成り立つ」と住民への丸投げではないことを強調した。

第106条の3では、包括的な支援体制の整備に関する市町村の努力義務を定めている。①「他人事」が「我が事」になるような環境整備②住民に身近な圏域で、分野を超えた課題に総合的に応じる体制づくり③公的な関係機関が協働して課題を解決するための体制づくり――の3つであり、①②は小中学校区等の圏域、③は市町村域等を想定し、①から③までを整備することで、地域でさまざまな課題が生じてもそれに気づく体制ができるという。本後室長は「地域の人たち主体でやれることをやるということではなく、市町村も加わってしっかり役割を果たし、点の取り組みを面の取り組みにしてほしい」と会場に呼びかけた。

「指針」と地域福祉(支援)計画策定ガイドラインの改定ポイントの行政説明

後藤真一郎地域福祉専門官は、この秋に公表予定の「指針」と地域福祉(支援)計画策定ガイドラインの改定ポイントについて説明した。「指針」の内容は、地域力強化検討会の中間とりまとめと最終とりまとめの中身が元になる。なお、中間とりまとめと最終とりまとめの関係は従来の形式とは異なり、中間とりまとめが骨格、最終とりまとめはその具体的な展開という関係になっている。指針は大臣告示のため非常にシンプルでそれだけでは分かりにくいので、詳しい説明は局長通知で案内されるという。

地域福祉(支援)計画策定ガイドラインの改定については、「高齢、障害、児童、その他の福祉に共通する事項を盛り込むのが最大のポイント。共通事項を盛り込むことで福祉分野の上位計画に位置づける」と話した。また、共通事項を盛り込むには、行政全体での取り組みが求められるため、福祉に限らず関係部局が一堂に会する場を設けるなどの工夫が必要であるとした。

改正法は2018(平成30)年4月1日施行となる。後藤専門官は、「直近の計画の見直しのタイミングで記載事項を追加していただきたい。計画期間は自治体によってまちまちなので、最長でも改正法施行後3年以内を想定している」と話した。ただし、都道府県については、「都道府県が率先して計画をつくってほしいという市町村もあるので、できるだけ早めに着手していただきたい」と求めた。

評価指標の行政説明

鏑木奈津子自立支援企画調整官は、市町村で包括的な支援体制の整備を進めるときに活用できる評価指標について説明した。これはモデル事業である「『我が事・丸ごと』の地域づくり推進事業」の実施時に作成した評価指標だが、モデル事業を実施していない自治体でも活用できるという。評価指標は‣全体共通事項(1問)‣我が事の項目(3問)‣丸ごとの項目(6問)‣多機関協働による包括的支援体制事業の項目(12問)‣行政の役割(3問)の5分野25問からなる。包括的な支援体制を構築する上で必要と考えられる取り組みの内容をステップ1~4の4段階で示しており「行動指標」に近い。問11を例にとると、「市町村域の地域ニーズや課題を把握する」では、ステップ1「ほとんど把握できていない」、ステップ2「日常的な業務や他機関と連携する中で入ってくる情報や、日常的な業務分野別計画やその他の事業で実施したアンケート調査の結果を利用して把握している」、ステップ3「関係機関等が集う会議や交流会の中で、聴き取り調査を行い把握している」、ステップ4「アンケート調査や悉皆調査を実施して把握している」というように、ステップが上がるごとに難易度が深まるようになっている。

活用する際には、問1から順に進める必要はなく、自治体の事情に応じて途中から始めてもよいという。鏑木調整官は「何から手を着けてよいのか分からない場合は、評価指標からできそうなものを選び、その中で(いきなり)ステップ4を目指すということも考えられる。評価指標を見ながら具体的な取り組みのイメージを持ってほしい」と話した。

事例報告では、大分県と大阪府豊中市から報告があった。

これで、福祉を中心とする地域共生社会の議論は一区切りがついた。今後、「保健」をテーマとした検討が始まるのかが注目される。

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