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【インタビュー】「標準的な健診・保健指導プログラム(案)」について厚生労働省健康局健康課に聞きました

この6月、厚生労働省健康局から第三期の特定健診・保健指導に向けた「標準的な健診・保健指導プログラム(案)」(以下、新しいプログラム案)が提示された。保険局の「特定健康診査・特定保健指導の円滑な実施に向けた手引」と併せて読むことで、第三期の特定健診・保健指導の全体像が把握できる。健康局健康課保健指導室の右田周平専門官と同課川本めぐみ補佐に新しいプログラム案について伺った。
※インタビューでは新旧対照表の変更箇所を中心に質問した。そのため、以下の質問で新旧対照表の該当箇所を【 】で示している。なお、第1編、第4編については特に質問をしていない。

全体を通して

―新しいプログラム案では、従来のプログラムの大枠を変えませんでしたが、その理由について教えてください。

健康課 平成30年度から始まる第三期の特定健診・保健指導では、若干の制度改正はあるものの、大きな方向性や枠組みは変わりません。そこで、新しいプログラム案についても抜本的な見直しは必要ないと判断しました。

―新しいプログラム案では、「医療保険者」が「保険者」に、「動機づけ支援」が「動機付け支援」に、「主治医」が「かかりつけ医」に、「内臓脂肪型肥満」が「内臓脂肪の蓄積」に、それぞれ表記が変わりました。何か意味があるのでしょうか。

健康課 法律、省令、告示等に合わせるために、それらの表記を変えました。「保険者」については「高齢者の医療の確保に関する法律」に、「動機付け支援」については省令に合わせました。また、「主治医」と「かかりつけ医」とでは厳密には意味が違いますし、「かかりつけ医」という言葉のほうが分かりやすいということもあり、表記を変えました。「内臓脂肪の蓄積」については、政令の表記に合わせて変えたもので、「内臓脂肪型肥満」と「内臓脂肪の蓄積」の意味するところが違うわけではありません。

―改訂された「健診・保健指導の研修ガイドライン」のポイントを教えてください。

健康課 研修ニーズの多様化を踏まえて、想定される受講者を保健指導実施者、保健指導チームのリーダー的立場にある専門職、特定健診等の運営責任者、人材育成・研修の企画・運営担当者の4つに分類し、それぞれに求められる能力あるいは技術を整理しました。また、それぞれに業務遂行能力チェックリスト、研修方法、研修の評価、具体的なプログラムの例などを新たに明示しました。今後は、それぞれの研修実施団体でこれらの内容に応じた研修が実施されることを期待しています。

第2編 健診

第1章 メタボリックシンドロームに着目する意義

―新しいプログラム案では、高LDLコレステロール血症が動脈硬化性疾患の危険因子であることが、あらためて明記されました。その理由について教えてください。
【参照頁:2-1】

健康課 もともと高LDL コレステロール血症は動脈硬化性疾患の危険因子であることが指摘されていましたが、現在のプログラムでははっきりとした記述がなかったので、検討会における指摘をもとに、新しいプログラム案では明確に盛り込むことになりました。

―動脈硬化性疾患の予防として内臓脂肪に焦点を当てていましたが、「やはりLDLも大事だ」と視点を少し元に戻したのでしょうか?

健康課 そういうわけではありません。もともとメタボリックシンドロームの診断基準にLDLコレステロールが入っていなかったため、現在のプログラムではLDLコレステロールに関する表記が手薄だったところがあります。新しいプログラム案では、そこをより明確に記述したわけで、考え方が変わったということではありません。

第2章 健診の内容

―健診項目の基本的考え方の中で、「糖尿病等の生活習慣病」という記述が「糖尿病や脳・心血管疾患(脳卒中や虚血性心疾患等)等の生活習慣病」という記述に変わりましたが、その理由を教えてください。
【2—1 健診項目(検査項目及び質問項目)>(1)基本的考え方、参照頁:2-2】

健康課 もともと特定健診の目標自体が、糖尿病や脳・心血管疾患の発症を予防するというところにあるので、分かりやすくしました。

―特定健診の基本的な項目で、「中性脂肪が400mg/dl 以上である場合又は食後採血の場合には、LDLコレステロールに代えて non-HDLコレステロールでもよい」との記述が加わりました。これについて説明をお願いします。
【2—1 健診項目(検査項目及び質問項目)>(2)具体的な健診項目>① 特定健診の基本的な項目、参照頁:2-2】

健康課 LDLコレステロールの算出には、主に総コレステロールからHDLコレステロールを引き、さらに中性脂肪の5分の1を引いた方法(フリードワルドの式)が使われます。しかし、この測定法だと中性脂肪の値が400mg/dl 以上の場合には信頼性が低いという問題がありました。また、フリードワルドの式以外にもLDLコレステロールを直接測定する方法もあるなど、算出法が一本化されていないという問題もありました。さらに、健診現場では、必ずしも空腹時採血が実施できないという課題があり、空腹時採血以外の場合は、検査を実施したことになりませんでした。
non-HDLコレステロールは、総コレステロールからHDLコレステロールを引いた値ですが、以上のような理由から、今回は一定の条件下においてはLDLコレステロールに代わる有用な検査方法として、non-HDLコレステロールで評価してもよいということになりました。

―「やむを得ず空腹時以外に採血を行い、HbA1cを測定しない場合は、食直後を除き随時血糖により血糖検査を行うことを可とする。なお、空腹時とは絶食10 時間以上、食直後とは食事開始時から 3.5 時間未満とする」との記述が追加された理由を教えてください。
【2—1 健診項目(検査項目及び質問項目)>(2)具体的な健診項目>① 特定健診の基本的な項目、参照頁:2-3】

健康課 血糖値に関しては、空腹時に採血できなかったときに、時間上の制限はありますが、随時血糖でもまったく有用性がないわけではないので、それを使って評価ができることにしました。なお、ここで食直後を食後3.5時間未満としたのは、健康局の検討会で「食後3.5時間以上を経過すると血糖値の分布が空腹時に近づく」という専門家からの報告があり、それをもとに決めています。

―新しいプログラム案では、「重症度に応じて受診勧奨方法を変更する等の工夫も必要である」など、健診結果に基づいた受診勧奨をより詳しく記述していますが、その理由について教えてください。
【2-2 健診結果やその他必要な情報の提供(フィードバック)について>(1)基本的な考え方、参照頁:2-5】

健康課 新しいプログラム案は、全体の流れとして、画一的な保健指導やフィードバックではなく、なるべく個人に合わせた方法を実施することに重きを置いています。受診勧奨に関する記述も、できるだけ個人に応じた対応を促すという意味合いで書き込まれています。

第3章 保健指導対象者の選定と階層化

―従来は動機付け支援・積極的支援の対象者「以外」に対する保健指導の実施については「医療保険者の判断」としていましたが、新しいプログラム案では「保険者や市町村等の判断」というように「市町村等」の文字が加わりました。その理由について教えてください。
【(3)留意事項、参照頁:2-10】

健康課 市町村等に対して、より積極的に取り組んでいただきたいために表現を変更しました。現在の法律では、保険者に特定保健指導の実施義務を課していますが、特定保健指導以外の保健指導については義務となっていません。そこで、保険者や市町村等に、特定保健指導以外の保健指導の重要性を理解していただいた上で、可能な範囲で実施していただきたいという趣旨で書いています。
特定健診・保健指導は、いわゆるメタボの方々に対して集中的に働きかけることにより、病気の発症予防や重症化を防げることが科学的に明らかになってきたので、まずはそこを重点的に取り組むというものでした。科学的な根拠に加えて財政的な判断もあり、優先順位としてメタボ対策から始めることに決めたわけです。そうした中で近年、新たな科学的な根拠が揃ってきたので、特定健診・保健指導以外の部分もより強調してやっていくことになりました。今後、特定保健指導の対象者を広げるかについては、科学的な根拠と運用面の課題を踏まえ検討することになると思います。

―同じ項目の中で、「腹囲計測によって腹囲基準に満たない場合にも、血糖高値・血圧高値・脂質異常・喫煙等のリスクが1つ以上存在している者では……」と、「喫煙等」が追記された理由について教えてください。

健康課 健康局の検討会の中で、「肥満が無い方にとっても喫煙は生活習慣病の重要なリスクの一つ」とのご指摘があり、それを受けて喫煙等を加えました。

第4章 健診における各機関の役割

―今回、各機関の役割の中に、「都道府県の役割」が追加された理由について説明をお願いします。
【(3)都道府県の役割、参照頁 : 2-14】

健康課 都道府県は特定健診の実施主体ではありませんが、特定健診と密接に関係する都道府県医療費適正化計画の策定主体です。また、市町村は規模にばらつきがあるので、都道府県内全体を見ることができる立場の都道府県に、必要に応じて市町村を支援する役割が期待されています。従来もそうした支援はなされていましたが、現行のプログラムには明確な記述がなかったので、今回、明記することにしました。

第6章 年齢層を考慮した健診・保健指導について

―新しいプログラム案では、高齢期を65~74歳と75歳以上に分けました。その理由について教えてください。
【6-1高齢者に対する健診・保健指導、参照頁 : 2-22、2-23】

健康課 高齢期は、加齢とともにからだの状態が大きく変化し、個人差も大きいため、一括りに「高齢者」として語ることは難しいことから、一つの基準として前期・後期に分け、それぞれの時期に注意すべき点をまとめました。具体的には高齢になると筋力が衰えたり、かかりつけ医を持つ人も増えたりするので、画一的な保健指導にならないよう留意するということを盛り込みました。また、75歳以上の後期高齢者については「フレイル」に着目して対策をまとめています。

別紙3 標準的な質問票、別紙3(参考)標準的な質問票の解説と留意事項

―項目数が22であることは変わらず、内容もだいたい同じですが、13番については内容が大きく変わっています。その解説をお願いします。
【別紙3 標準的な質問票、別紙3(参考)標準的な質問票の解説と留意事項、参照頁 2-29、2-35】

健康課 口腔機能が低下することで、野菜の摂取量が減少したり、場合によっては脂質や糖質の摂取量が増加してしまったり、生活習慣病のリスクが高まるという指摘がありました。また、歯の喪失でかめなくなることで食生活に関する指導を受けてもそれが実践できないなどの支障が出ることもあります。こうしたことから今回、口腔機能に着目することも生活習慣病対策に資するのではないかという判断で13番の内容を変更しています。

第3編 保健指導

第1章 保健指導の基本的考え方

―生活習慣の改善を促す支援にあたっては、「心身の状態や現在の生活習慣が構築された背景要因(家庭・職場環境や経済状況等)にも留意」との記述があります。今回、背景要因がクローズアップされた理由を教えてください。
【(3)生活習慣の改善につなげる保健指導の特徴、参照頁:3-1】

健康課 標準プログラムの改訂にあたっては改訂作業班を設置し、それぞれの専門家の先生方からいろいろな意見をいただきましたが、特にこの部分については、「現在の生活習慣は長期間かけて形成されてきたため、その改善につながる支援は表面的な理由だけではなく、背景要因も踏まえた支援を行うことも必要」というご意見がありましたので、こういう形で追記しました。健康日本21(第二次)で、社会環境要因が強調されているということにも配慮しています。

第3章 保健指導の実施

―「『動機付け支援』『積極的支援』に必要な詳細な質問項目」はかなり詳細にわたって記述されていますが、活用法について教えてください。
【3-1基本的事項>表4「動機付け支援」「積極的支援」に必要な詳細な質問項目、参照頁:3-23】

健康課 現在のプログラムでは、健康意識や食生活習慣に関する具体的な確認方法は保健指導に携わる方に委ねられていましたが、保健指導実施者や作業班の構成員から「もう少し具体的な質問があったほうがよい」というご意見を数多くいただきました。そこで、厚生労働科学研究の研究成果を踏まえ、科学的な知見に基づいた具体的な質問項目を作りました。
これは標準的な質問項目とは違って、必ず全員に実施しなければいけないものでもありませんし、全部の項目を質問しなければいけないというものではありません。あくまでも保健指導を行う際に参考として活用していただければと考えています。ここにないことを聞いていただいてもよいし、ここからセレクトして質問していただいてもよく、初回の保健指導の際に、これらの質問項目等を実施することで、保健指導をすると人と受ける人が、現在の生活習慣や改善すべき課題を明確化し、保健指導に取り組むことが大切です。

―情報提供の項目で、「ICT等を活用した分かりやすい情報提供の推進」が新設されました。これについて説明をお願いします。
【3-3 情報提供・保健指導の実施内容>(1)「情報提供」>⑦ICT等を活用した分かりやすい情報提供の推進、参照頁:3-46】

健康課 特定保健指導の対象になった方については、いろいろ情報提供する機会がありますが、対象にならなかった方の場合は、現状では、健診の結果を返すときに、結果の読み方とか、メタボ等に関する情報提供をして終わりというパターンが多いかもしれません。もちろん、それらも大事ですが、それに加えて、ICTを活用することで健診を受けた方にも受けてない方にも、健康について関心を持ってもらえるような取り組みをお願いしたい、という趣旨で書いてあります。

―従来は、保健指導の評価は6か月後とされていたのが、3か月後でも可能となりました。制度を運用する現場にとっては大きな変化ですが、3か月後でも可能となった理由について教えてください。
【3-3 情報提供・保健指導の実施内容>(2)「動機付け支援」>③ 支援期間・頻度、参照頁:3-47、3-3 情報提供・保健指導の実施内容>(3)「積極的支援」>③支援期間・頻度、参照頁:3-49】

健康課 保険局の検討会の中で、実際の保健指導の場では、3か月の指導で一定の効果が得られているデータが示されるなどの議論がありました。また、保険者からも評価までの期間の短縮の要望が出されています。それらの事情を勘案し、保険局の判断で評価までの期間を短縮したものです。

―ただし、保険者の判断で従前どおり6か月経過後に評価を実施したり、3か月経過後の実績評価後に独自のフォローアップを行ったりもできることになっています。なぜ、こうした記述になったのでしょうか。

健康課 今般の改正で3か月後の評価でも可能としましたが、保険局の検討会でも、健康局の検討会でも、評価までの期間が短縮することによって、保健指導の効果が低減することについて懸念する意見がありました。それらも踏まえた上で、制度的には3か月経過後に評価を行ってもよいことになりますが、従前どおり6か月後に評価を行うことも可能であることや評価を行った後も生活習慣の改善が維持されていることを確認することは重要であることを強調するために、このような記述をしました。

―確認ですが、まず保険局の検討会の構成員から「運用を弾力化したい」との要望があり、「リバウンドの懸念はあるけれども、まずは数字を達成しよう」ということで運用の弾力化を図った。しかし、健康局としては、リバウンドの懸念をカバーするために、現場ではある程度フォローアップしていったほうがいいという記述も盛り込んだということですか。

健康課 保健指導をどの程度やれば十分な効果が得られるかについてのエビデンスは、まだ十分に蓄積されていません。現行制度の「6か月で180ポイント」というのは、モデル事業を通じて得られた知見から導かれたものです。3か月後に保健指導を受けたすべての人が十分な効果を得ることができるかどうかについては、現時点では、科学的な知見が十分に蓄積されていません。保険局の検討会では、「3か月でも体重減少の効果がある」との研究結果が資料として出されました。保険者からは見直しの要望が出されています。それらを含めさまざまな事情を勘案して、今回の結論に至ったのではないかと思います。評価までの期間を3か月に短縮した今回の制度改正の効果や影響については、今後、保険局で評価をしていくことになると聞いています。

―2年連続して積極的支援に該当した人の場合、2年目の特定保健指導は保険者の判断で弾力的に運用できることになりましたが、その理由について教えてください。
【3-3 情報提供・保健指導の実施内容>(3)積極的支援、参照頁:3-49、3-8 2回目以降の対象者への支援、参照頁:3-72】

健康課 ここは健康局の検討会でも議論になったところです。構成員の先生方からは、「繰り返し積極的支援の対象となる人は、そうではない人よりも保健指導の効果があらわれにくい人の割合が多い可能性がある。より個別性に応じた保健指導や、同じ保健指導を繰り返すのではなく、目先を変えた保健指導を実施する必要があるのではないか」という意見がありました。保険局の検討会でも、そうした意見が出ており、それらを踏まえて今回のプログラムに盛り込みました。2年連続して積極的支援に該当した人への保健指導の弾力的運用には、「前回の保健指導のときから、腹囲が1センチ以上かつ体重が1キロ以上減っている」など、一定の条件がつきます。具体的には、保険局から通知等で示される予定です。

―特定健診の当日に、腹囲・体重、血圧、喫煙歴等の状況から特定保健指導の対象と見込まれる人に対しては、初回面接を行って暫定的な行動計画を作成し、後日医師が総合的な判断を行うことができるようになりました。初回面接を分けることを可能とした理由を教えてください。
【3-3 情報提供・保健指導の実施内容>(4)「実施に当たっての留意事項」>⑨健診当日の保健指導の実施について、参照頁:3-62】

健康課 初回面接を分けることについては、保険局の検討会で構成員から強い要望があったと聞いています。具体的な実施方法等については、保険局から通知等で示される予定です。

―「3-9 特定保健指導の対象とならない非肥満の脳・心血管疾患危険因子保有者に対する生活習慣の改善指導」が新設された理由を教えてください。
【参照頁:3-73】

健康課 健康局の検討会では、特定保健指導の対象とならない人でも、高血圧、脂質異常、高血糖、喫煙習慣のある人は、そうではない方と比べて、脳血管疾患や心疾患になるリスクが高いというデータが示されました。そこで今回、これらの方々に対する保健指導についてもその重要性や具体的な保健指導の方向性について示しました。
現行のプログラムでは、高血圧や高血糖などのリスクごとの指導、あるいは減塩や運動等の生活習慣ごとの指導については記載していませんでしたが、これらの内容は、非肥満者でリスクのある方だけではなく特定保健指導の対象者にも使える内容であるので、表12として新たに追加しました。

―最後に、現場の方々にメッセージをお願いします。

健康課 「標準的な健診・保健指導プログラム」は、「特定」という言葉が入っていません。本プログラムは、特定健診・保健指導に限ったプログラムではなく、健診・保健指導全般で参考にしていただくためのプログラムだからです。ただ、そうはいってもいろいろな健診がある中、一定の限られた分量でプログラムを提示することには限界がありますので、ここでは法律に基づいて実施する健診の中でも比較的体系化されている、特定健診・特定保健指導を中心にしてまとめてあります。特定健診・特定保健指導以外の健診・保健指導でも、本プログラムに記載している内容で使える部分があれば積極的に参考にしていただき、より効果的かつ効率的な健診・保健指導を実施していただければと思っています。

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