「月刊 地域保健」「SNS保健指導向上委員会」合同企画 ニッポンの健康づくり 辻一郎先生 津下一代先生 インタビュー

「健康日本21(第二次)」が平成25年度からスタートします。同年7月には「健康日本21(第二次)」の推進がうたわれている「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」が大臣告示され、その内容が見えてきました。「健康日本21」とは、10年後の日本のあるべき未来の姿を描き、その目標に向けて、健康づくりを進めていくための、「未来日記」のようなもの。「国の目標なんて現場の人間には関係ない」「また国が決めたことをやらなくちゃいけない……」と思っていませんか。

「健康日本21(第二次)」では、10年後の日本の姿として、国民が健康でいきいきと暮らすために、「健康寿命の延伸」に加え、新たに「健康格差の縮小」の実現を掲げています。そのために個人の行動変容と社会環境の整備との両輪による健康づくりをしていこうというものです。

内容は、下記アドレスからご覧いただけます。
国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_01.pdf

推進するにあたって参考となる資料はコチラから
健康日本21(第二次)の推進に関する参考資料
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_02.pdf

参考資料にある分野ごとの目標数値は、目標値に近づけていけば、結果として「健康なまち」をつくることができることをエビデンスで示したもので、今後のまちの保健事業を進める手引書として活用できます。また、国や自治体の役割はもちろん、健康支援の専門家の役割も提示されています。

実はここには「具体的な施策」は書かれていません。それはなぜでしょうか。

本企画は、「健康日本21(第二次)」策定の委員である辻一郎先生(座長)、津下一代先生(副座長)のお二人に、「健康日本21(第二次)」の理念や役割、重要性をぜひ語ってもらいたいと思いお願いしました。「健康日本21(第二次)」を多くの方に知ってもらいたいと考え、弊社発行「地域保健」と「保健指導向上委員会」との合同企画です。

「地域保健」では、「健康日本21(第二次)」の理念や狙いとするところについてお二人の先生にご対談いただき、その後に「保健指導向上委員会」では、実践する立場としてなにをすべきかを編集部からインタビューさせていただきました。
本来の順番としては「地域保健」→「保健指導向上委員会」の順で読んでいただく内容かとも思いましたが、webの特性をいかし、ひと足先にアップすることにいたしました。
先に「健康日本21(第二次)」には「具体的な施策」は書かれていないのはなぜか、ということを書かせていただきましたが、インタビューをお読みいただくとその一端が語られているかと思います。先生方の思いとあわせてお読みいただければ幸いです。

「地域保健」11月号も楽しみにお待ちいただきつつ、まずはぜひご一読ください!!

「健康日本21(第二次)」のスタートに向けて、現場の担当者が、まずすべきことはどんなことですか?

辻一郎先生辻:「健康日本21(第二次)」での、市町村の役割は、まちの健康づくりを企画したり、進捗管理したりするということ。実際にこの事業を展開していくのは、住民団体であったり、給食事業者であったり、学校であったりと、地域全体が健康づくりに向けて動いていこうというものです。
市町村が、住民に“してあげる”というものではありません。市町村は、むしろ地域の力をボトムアップし調整するのが大事です。これからは、地域の声、地域の力をひろいあげて、全体を風通しよくすることが行政の仕事だと思います。自治体の役割はあくまで住民が健康づくりに向けて動くきっかけをつくることですし、そういう意味でいえば、今回の「健康日本21(第二次)」も、まちの健康づくりを進めるための、まさにきっかけをつくるためのものといえます。

健康支援の専門職はもちろん、まちにいる一人ひとりすべてが社会資源ですから、多くの方を巻き込めるような体制をつくっていく、それが市町村の仕事です。
そこからは、いろいろな職種の方がいらっしゃるから、それぞれにがんばってもらえるような下地づくりをして、実践に結びつけていくことですね。

津下一代先生津下:「健康日本21(第二次)」の国の目標策定に当たり、策定委員の先生方は、それぞれの分野で真剣に検討され、エビデンスをもったものをつくっています。まずは、担当者と関係各所のメンバーがそれぞれの分野にあわせて、特定健診のデータ、国保の医療費のデータ、介護保険のデータなどを持ち寄って、自分のまちのそれぞれのデータと比較してみることが大切だと思います。次期計画にも、市町村は既存データを活用すると良い、保健担当者だけでなく部局横断的にも話し合うことの大切さといった記述がされています。
集まったメンバーで「うちはこうなっているんです」ということをお互いにプレゼンし、どうしてこういうデータがでてきたのだろう、どうしたら良くなるのだろう、そしてどんな地域にしていきたいのかなど、地域への思いを語りながら、そこから何が見えるかを話し合うことからはじめてほしいと思います。そこからはじめてもらうと、イメージがつかみやすいのではという気がしています。

ただし、そこから何をすべきかは、市町村によって違ってきます。問題点をみつけ、情報を共有化する、トップの理解を得て進める、地域の協力者を増やしていくなど、なにからどのようにすすめていくかなど、戦略はかなり違ってくるのではないでしょうか。


辻:「健康日本21(第二次)」は、国からこんな運動をしなさいというものではありません。市町村それぞれがかかえる健康問題は、違いますから。
第1次は、自治体みんなが同じように目標をつくるという、目標のための目標になってしまったところが多かったようですが、自分たちに必要なことは、自分たちで決めていくという民主主義にしたがって、地域ごとに、プロセスを考えて実行していくことでこそ、わがまちの健康づくりとなる。地域診断をしたり、地域の資源を探し活用したり、自治体のなかで横のつながりをどういうふうにしていくかだったりと方法はいろいろあると思います。
まちの固有な状況をみながら、なにが問題でなにが資源なのか、そういうことは地域でしかわからないことですから。たとえば、高齢社会というと否定的にとらえがちですが、高齢者が増えている分だけ、まちの社会資源が増えているとも考えられるわけです。

津下:今までのやり方だけではなくて、例えばいま防災への関心が高くなっていますから、防災のなかで健康を伝えていくというのもひとつの方法です。防災と健康で重なる部分はたくさんあります。高齢者や障害者の所在確認からつかんでいったり、逃げるということも健康づくりにリンクしやすい部分があるでしょう。
だから、地域資源を考えるときは、使えるものはなんでも使っていく、つながれるところにはどんどん声をかけていくという広げ方をしていくと、資源はいっぱいあるのではないかという気がします。

自治体が、健康づくりについて「やってあげます」というと、住民からは「いらないよ」といわれますが、「助けてくれませんか」というと、「力になるよ」といってくれる人が多いわけです。実際に、防災や子どものため、まちのためにというと、一緒にやってくれる人が増えていきます。健康づくりの場と制限せずに、いろんな場面、いろんな集まりにどんどん出ていくといいですよ。まちに協力者を増やしていくことが大切ですし、担当者もいろんなつながりをもつことで刺激にもなります。

実際、こうした活動をすると担当者自身が元気になるんですよ。保健事業として「人を集めて決められた事業をしなくてはいけない」と思うのではなく、こうしてまち全体をつなぎ、健康につなげることをやりたかったんだという声を良くききます。

「健康日本21(第二次)」を進めるにあたって、ポイントとなるものはなんでしょうか。

辻:僕はイメージ戦略も重要だと思います。健康への考え方を変えていかなければいけないですね。
例えば、たばこをやめる方法があって、たばこの害もわかっていて、でも吸っている人がいる。食事もそうです。塩分を減らせばこうだということがわかっていて、でも塩分をたくさんとっている人がいる。知識としてはわかっている、そこから先の変える方法もあるのに、変えない人できない人がいます。いま、世の中は2つに分かれていて、健康づくりをがんばる人と、しない人できない人に大きく分かれてしまっていると感じます。これがさきほどもいいましたが(地域保健11月号掲載予定を楽しみに……)、所得格差、希望格差、意欲の格差となり、そこから先、健康格差になってくるわけです。

健康でありたいと感じる人をどうつくっていくのかが、これからの大きなポイントになるのではないでしょうか。健康になりたいと思ったら、そこから先のノウハウは完璧にできています。知識としてわかっているけど、面倒くさい、やりたくないと思っている人たちが健康づくりへ動きやすくなるような、そんなムーブメントが必要です。

津下一代先生、辻一郎先生米国でいうと、たばこを吸う人はかっこ悪いというソーシャルキャンペーンで、たばこのイメージががらっと変わりました。他にも、週末はジョギングするのがエリートのあるべき姿というのが社会の共通認識となっています。
健康にいいからやるといって行動変容するのは、ごくわずかな人です。健康づくりは修行のように我慢しがんばるイメージが強いと思いますが、健康にかっこよさや“いけてる感”(笑)というプラスイメージを出していくと、トレンドになるわけです。
例えば、給食。給食には、以前は栄養のことだけでおいしくないというマイナスのイメージがあったかと思いますが、実はいまの子どもたちには、とっても貴重な栄養源ですよね。最近では、タニタの社食のレシピ本はベストセラーになって、丸の内にお店ができるなど、もうかる仕事といえるでしょう。そして、給食産業はやりがいのある職場、かっこいい職場というイメージがつくられていくわけです。

社会全体の健康志向は強まっていると感じます。うまく発想を転換させることで変わっていけるのではないでしょうか。

津下:対象者と面接できる「特定保健指導」は、大事にしてほしいと思います。健康に関心がない人、メタボで呼び出されて仕方なく来た人など、普段会えない人から話を聞けるチャンスです。どうしてメタボになったのか、生活習慣を変えられないのはなぜかという理由を話してもらえる。
話を聞いてみて対象者の多くが同じ要因だったら、それは環境要因なんですよ。社会環境づくりのヒントになります。対象者から得た情報から、地域みんなに共通する課題となるものを見つけ、地域の課題としていく。そうすると対象者個人の努力で行動変容してもらうのではなく、まちの健康づくりの視点で解決していけるのではないかと思います。
他にも個別の業務の問題点から、まちづくり全体に反映できることはたくさんあるのではないでしょうか。

個人の健康やまちの健康という言葉をよく使いますが、そもそも、いまの時代、健康とは何なのでしょうか。根本的な質問ではありますが、ぜひ先生方の考える「健康」とはなにかを教えていただけますか。

辻一郎先生辻:「幸せ=健康」だと思います。かつて、メンタルヘルスが重視されていなかったころは、血液の検査値で健康が決まることも……(笑)。医学的なデータでこの範囲に入らなければならないというのが、昔はありましたよね。
いま社会全体でメンタルヘルスのニーズが高まっているなかで、いちばん大切な健康の定義はなにかというと、主観的健康度が高いことです。本人が幸せだったり、生きがいを感じていたりすることこそが、健康だと思います。実際に、生きがいをもって暮らしている人は(生きがいのない人よりも)長生きしていることを、私たちは宮城県民を対象とするコホート研究で報告しています。
ソーシャルキャピタルという言葉を健康のキーワードとしてよく聞くようになりましたが、ソーシャルキャピタルとは、「人とのつながり」のこと。人は、人とのつながりのなかでこそ、幸せや生きがいを感じるのではないかと思うのです。孤独に生きている人は、たとえ体が健康な状態でも、健康と自覚できるでしょうか?
一人ひとりの主観的健康度を高めるという視点からも、人とのつながりを築き、まち全体の健康を考えることが重要だと思います。

津下:自分でしたいことがある。だから健康でいたいから、糖尿病のコントロールもがんばるわけです。糖尿病のコントロールを目的に生きているわけではない。医療者は逆転しやすくて、病気のコントロールが最終目的であるみたいに思ってしまう。
自分のやりたいことが、たかだか病気のためにやれなくなるのをできるだけ減らそう。そのために、将来を考えるというのが健康行動だと思います。
そして、私たち専門家は健診などのデータをみることで、今後の健康状態を予知することができるわけですから、将来にわたって主観的健康度が高い状態を維持するために、なにが必要なのかを話し合い、修正できることがあれば修正したほうがいいのではと助言することができます。

まちの健康づくりも同じようにとらえていて、将来にわたって、このまちで元気に住むにはどうしたらいいのかを話し合って、やれることはやっていこうというのが、「健康日本21(第二次)」だと思います。

最後に、これから「健康日本21(第二次)」を実践していく、行政の担当者やまちの健康づくりを進めていく専門職の方へ一言。

辻:以前は、中央政府が潤沢な予算を持ち、地方に補助金を出すというお仕着せがあったかと思います。いまはこうしたことは、だいぶ減ってきて、市町村が自分たちで考えていくという部分が増えてきていますよね。まちの声を聞き、そのまちの特性をいかす健康づくりはなにかを、「自分たちで考えていくこと」がなにより重要です。その辺はどんどんよくなってきているのではないでしょうか。ある意味プラスに考えると市町村合併のおかげでスケールメリットがでてきているので、地方自治体に多様なスタッフが集まってきているように感じています。

津下一代先生津下:今までもいろんな経験をしていると思います。今までの保健事業でうまくいったこと、いかなかったことなど話し合って、まず「見える化」してみる。「健康日本21(第二次)」をきっかけにいったん見直すことができるといいですね。
あと、保健師など専門職チームでかたまりすぎないこと。事務職の人といっしょにやると、いろいろな角度から検討できるので、自分たちのやろうとすることを客観視することにつながります。役所のなかに健康の大切さとか、活動をよく理解してくれるメンバーを増やしていくことは重要です。上手に予算をとってきたくれたりしますしね。チーム内で話し合うことも大切ですが、いろんな視野のひとたちといっしょに進めていくと、「まちの暮らし」という生活の現場とうまくつながれるネットワークができる、これが大事かなと思います。