特集-インタビュー

第7回 山縣邦弘先生が語る CKDを通して考える保健指導

山縣邦弘先生インタビューつづき

5年後の見直しで血清クレアチニンの復活を

ところで、特定健診で今まで住民健診などにあった血清クレアチニンがなくなってしまいましたが…。

尿検査だけは残りましたが、血清クレアチニンがなくなってしまいました。そのため、いわゆる「CKDのステージ3」といわれる腎臓の働きが正常の60%を割った方のうち、尿検査で尿異常のない人が実は90%ぐらいいますが、この方たちを見つけることができなくなってしまったのです。


早期発見の機会がなくなってしまったということですか?

筑波大学大学院人間総合科学研究科腎臓病態医学教授 山縣邦弘先生 そうです。私たち腎臓専門医からは、高血圧や糖尿病があったりする方には年に1回は病院で血清クレアチニンを調べてくださいということをお願いしています。それでないと見つける手立てがない。

初期の段階ではほとんど自覚症状がないのがCKDの特徴です。特にステージ3ぐらいでは、検査をしないとわかりません。CKD発見の検査をするきっかけが血清クレアチニンだったのです。それがなくなりましたから、今後、もっともっと症状が出てから見つかることになり、そのときには人工透析をする直前になってしまうのです。そうならないために、病院で調べてもらうしか方法がなくなったことに大きな問題があると思います。


血清クレアチニンは、やはり特定健診の検査項目に必要ですか?

私たちは必要だと思っております。今後5年間で、特定健診・特定保健指導は見直しされます。その間に「検査」の意義をきちんと示しなさい、ということではないでしょうか。腎臓の検査に限らず、すべての健診項目、そして保健指導にもいえることかと思います。

血清クレアチニンについては、健診項目としての有効性についての検証が厚生労働省の研究費により、福島県立医大の渡辺先生が中心になってはじまっています。地域によっては、特定健診で血清クレアチニンを実施しているところがありますので、検査をしている地域とそうでない地域を調べて、患者さんの予後にどのような差が出てくるかを調べていきます。この調査から血清クレアチニンの有効性を導き出せたらと思います。そして、その結果、腎不全の患者さんが減らせるということをきちんと検証していきたいと思っています。


今回の改正で、75歳以上の高齢者には、血清クレアチニンの検査はもちろんなく、尿検査の実施も努力義務になりましたが。

筑波大学大学院人間総合科学研究科腎臓病態医学教授 山縣邦弘先生 今から心配しているのは、現実的に75歳以上の方は、病院に行かない限り腎機能を見る機会が一つもないことです。

筑波大学では厚生労働省の難病研究の中で急速進行性腎炎という病気の研究を進めてきました。この病気は、日本の透析導入原因疾患の5位ぐらいで、腎不全の原因としては少なくないのですが、発症の多くは70歳以上。最近では、病気の発見のきっかけは半分近くが健診での検尿異常とか、血清クレアチニン異常です。この人たちを見つける手立てがなくなったことで、今後数年間でもしかしたら見落としが増えることが考えられます。つまり40歳以上にも必要だと思いますが、75歳以上の後期高齢者にとっても、血清クレアチニンや尿検査が必要だということが研究班として示せるかもしれません。


ところで、微量アルブミン尿の検査は健診項目となる可能性はありますか?

微量アルブミン尿は位置付けが難しいですね。CKDという中では、微量アルブミン尿が心臓血管病のリスクということが言われています。また、糖尿病性腎症の早期発見目的での微量アルブミン尿の検査については、みんなが認めるところだと思います。

ですが、健診で微量アルブミン尿をやることが、様々な疾患の予後改善につながるかどうか、これは答えがない。なぜかというと、まず、日本でやった微量アルブミン尿の一般健診での陽性率というのは海外の数倍です。

もともとたんぱく尿は、欧米に比べるとアジア人は陽性になりやすいようですね。そこへ微量アルブミン尿は、もっと感度がいいですから、べらぼうな陽性者数になる。たとえば健診で100人受けて15人引っかかるわけです。その人たちを精密検査に回すのは、受診者の負担や費用対効果を考えると有効でしょうか? それよりは、高血圧の結果、微量アルブミン尿が出ているようなら、高血圧をきっちり指導、糖尿病での陽性者の対応など、疾患をお持ちの方に二次健診として施行したほうがいいのではと思います。


では最後にサイトの会員のみなさんにメッセージをお願いします。

筑波大学大学院人間総合科学研究科腎臓病態医学教授 山縣邦弘先生 保健指導は、指導をすること自体が目標ではなくて、指導の結果、ある病気の悪化を予防したという結果を出すことが指導の目的だと思います。ですから、その「結果」を、みんなが納得できるように示せるようにしていくことが重要ですね。「結果」を出すにはどうしたらいいのか、そこからよく検討していくことで、もっとよい結果を出す指導というのがわかってくるはず。指導法の改善を続けていただき、最終的な目標である“病気で苦しむ患者さんを減らす”ために何とかがんばっていただけたらいいなと思います。


取材後記

なぜ腎臓の専門医に目指されたかお伺いしたところ、「腎臓という臓器を通して初期から一貫して診ることができるから」とのこと。腎疾患の患者さんとは、症状を治癒して終わりではなく、腎臓の状態をみながら長期にかかわることになります。そんな患者さんの腎機能の低下を抑制のために保健指導の有効性について非常に関心を寄せていらっしゃいました!

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