特集-インタビュー

第6回 田中一哉理事が語る
市町村国保が特定健診・保健指導を円滑・効果的に実施するためには

田中一哉理事インタビューつづき

ところで、市町村のうち国保課に保健師がいないため、一般衛生部門と連携・協力して、国保の特定保健指導を行うというところが多いようですが…。

(社)国民健康保険中央会 田中一哉理事 特定健診・特定保健指導事業において、保健師によりよく活動してもらうには、やはり国保の所属にしてもらうことが重要です。他のセクションにいる保健師にお願いして対応するということは非常に限界があります。

私は、行政上、「連携・協力」ほど空疎な言葉はないと思っています。昭和53年までは、市町村の保健婦のほとんどが国保の保健婦でしたが、一般衛生部門で国民健康づくりを行うことになり、国保の保健師が全部一般衛生に移管されました。このときから国保に保健婦がいなくなりました。それでも国保はいわゆる被保険者の健康保持・増進を行うとされていますから、保健事業をやらなければいけなかったわけです。そこで、昭和53年の移管に際して厚生省(当時)では、局長通知、課長通知で、国保の保健事業について、一般衛生部門と連携・協力して行いなさいという通知が出ました。

ところが、連携・協力の効果は出ていないのが実態です。効果が出ない理由は、やはり保健師の所属が違うということです。自分の所管で「やること」が当然ありますし、余力があったら手伝うことになっていたとしても、余力があったら自分の所属でもっと「やること」はないかと考えるのが通常です。つまり、自分の所属の「やること」には限界がないわけです。だから、連携・協力というのは、あくまでも言葉であって、実際はまずできません。30年間、私が保健事業の市町村現場を見て思っていることです。


これからは、国保に所属する保健師が必要ということですか?

一般衛生部門にしか保健師がいないのなら、一定の人数を国保に配属してもらいたいと思っていました。こうした我々の要望が厚生労働省から特定健診・特定保健指導に従事する保健師に対する地方交付税の要求として出され、結果として、平成20年度には特定健診・特定保健指導の保健指導に従事する保健師4300人の予算がとれました。この市町村保健師の4300人は、特定健診・特定保健指導を実施する国保に配属させてほしいと思っています。4月1日から人事異動でトータル4300人は全部国保課に配属されたという状況をつくっていくことが大事です。

なぜなら、医療適正化という結果を出すには保健師が必要不可欠だからです。国保に所属する保健師にしっかり保健指導をやってもらいたい。本気で保健指導をして国保の被保険者に元気になってもらわないといけません。

健診と保健指導と考えたとき、健診というのはあくまでもその人がどういう状態にあるかという情報にしかすぎません。その情報を活用して、保健指導が必要と考えられる人に対して、どれだけ手厚く保健指導するかが医療費適正化に結びつくと考えています。健診の受診率の向上だけでなく、保健指導の効果をどれだけ上げるかに力点を置かなければいけないでしょう。


国保所属の保健師には、どのような活動をしてもらいたいと思っていますか?

(社)国民健康保険中央会 田中一哉理事 保健指導を徹底してやっていくために、ぜひ保健師や関係者に意識してもらいたいのは、本来の保健師の職能としての役割に戻ってもらいたいということ。今、市町村の保健師の実態を聞くと、7〜8割、場合によっては9割ぐらいがデスクワークになっているそうです。実際、市町村の住民の中に入っていって、保健指導をやるという時間はきわめて少なくなっています。

ですから、事務方は保健事業だからといって保健師に丸投げするのではなくて、実務的なことはどんどん手伝ってほしいですね。そして、せっかく保健師という専門職がいるのですから、その職能の知識・経験等を活かせるような雰囲気をつくっていかなければいけないと思います。

今、全業務の2割しか訪問活動しなかった保健師が、これが逆転して8割になったら、人を増やさなくても実質的には保健師を4倍にしたのと同じことになります。


具体的にはどのような保健指導をイメージしていますか?

保健指導の方法は、電話やメールで連絡したり、健診結果をペーパーで渡したりとさまざまな実施方法がありますが、やはりフェイス・トゥ・フェイスの対応をしていくことが最も効果が出ると考えています。

保健指導として、つねに訪問する、実際相手と会うという、保健師本来の職能である訪問活動を中心に行ってもらいたいと思っています。国で決めている保健指導の頻度ではなく、地域の中に出て、個人あるいは集団にどんどん対応していく。町中を歩いているときに、「あの人は保健師さんだ」ということがわかるようになってほしいですね。保健師の活動が、地域の中で日常的に見えてくるようになり、がんばっているのを感じたら、住民の健康に対する意識は変わっていくはずです。

保健師は経験で学んでいく職業だと思います。学問としての勉強も大切ですが、現場に行っていろいろなケースに対応しながら、学んでいくことが重要ではないでしょうか。現場中心に動く。つまり住民を直接知るということですね。また、現場の声を聴いていることが、議会や市町村長に対して発言力を増すことにもなり、よりよい保健事業につながっていきます。住民を知っている保健師の力は地域に大きく影響していきますから。

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