保健師を語る

「保健師っておもしろい!」
小川一枝さん

東京都医学総合研究所の難病医療専門員として活躍する小川一枝さん。かつては都の保健師として島しょ部や保健所で現場を経験してきました。そんな小川さんの語る保健師の仕事とは。

2017-05-09

回り道して保健師に

みなさんは、どうして保健師を目指したのだろう?
私が保健師になったのは、高校生のときに目にした青年海外協力隊の記事から看護師を目指し、途上国に行くのであれば公衆衛生も学んだほうがよいからという理由だった。だから看護師として大学病院での臨床経験を積んで、青年海外協力隊に参加して、回り道して保健師として就職した。
保健師として働き始めた当初、行政というこれまで知らなかった世界に「不思議、ちょっとカッコいいけど複雑」、乳幼児健診などでの保健指導に「私、子育て経験ないし……こんなんでいいの?」と不安ばかりだった。しかし一方で、これまで臨床で働いてきた私は、「患者さんに直接ケアしてなんぼ」の世界に浸っていた。だからコーディネートとか、ネットワークづくりとかという保健師の役割を理解するのに「雲をつかむような思い」が自分自身の中にあった。ただ目の前のことをやるだけで精いっぱい(遊びも精いっぱいしましたが〈笑〉)。健康教育の原稿づくりに何度もダメ出しされたり、アルコール依存症患者の対応の勉強のために徹夜で逐語録を作成したり。その一つ一つが今の私につながっているのだと思う。

等身大の自分でいい

ひよこ保健師のころは、一人前に見られるために必死だったかもしれない。保健指導できるように本から知識を得ることや、先輩の相談スキルを横目で見て、「そういうものか」と形で捉えていた。
当時の私に助言するとしたら、「等身大の自分でいいんだよ」と言いたい。保健師に相談する対象者は、答えを求めているのではない。答えは自分が出すものだから。困り事に一緒に悩んで、寄り添って、そのうえで解決に向けて情報を提供してくれる人が必要なのだと思う。困り事に共感しないで、専門知識で蓋をされたら相談者はどんな思いになるでしょう。それはとても寂しいことですね。

個別アセスメント力の向上が地域診断につながる

個別支援を重ねていくと、事例の一つ一つに人生があり、保健師はいろいろな人の人生の疑似体験ができる特異な職種だとつくづく思う。「当たり前」ということがどんなに大切で難しいことか、今ある生活に感謝して、自分の人生をも広げることができる。
しかし、独りよがりの支援にならないための努力が必要だ。とくに若いときに「事例検討」を何度も経験すると、保健師としてアセスメントする力がついてくる。ここがポイントだと思う。なぜかというと、個別のアセスメント力の向上が地域診断にもつながっていくからである。数の羅列の資料だけでは、地区診断はできない。相談事例の困りごと(保健師もなんとかしたいという思い)が地域の課題として顕在化され(地区診断)、その解決に向けて地域へアプローチしていくことが保健師の活動であり、その成果として新たな事業やシステムなどが構築される(施策化)。
地域へのアプローチでは、必然的に今話題のキーワードとなっている顔の見える多職種連携があり、それは従来からの保健師の活動そのものである。

保健師は地域を手当する

私は、「患者さんに直接ケアしてなんぼ」の世界から、ここに到達するまでに十数年は費やした。
看護師は患者さんに直接手当をし、保健師は地域を手当てする。保健師の仕事の大半は法律に基づいた業務ではあるけれど、その地域に応じた方法で、いろいろな制度や機関、人材を駆使して展開していく、とてもクリエイティブな仕事だと思う。だから、保健師って本当におもしろい!

(公益財団法人東京都医学総合研究所難病ケア看護プロジェクト難病医療専門員)

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