保健師を語る

「住民とともに地域の課題を解決する保健師活動の醍醐味」
梶山直美さん

住民の思いに寄り添い、住民とともに地域の課題解決に当たってきた梶山直美さん。現在は本庁で市の保健師全体を見る立場に。梶山さんが語る、部署が変わっても変わらない、保健師活動のコアとは。

2016-09-12

介護者の思いを知る

1983(昭和58)年に老人保健法が成立・施行となり、堺市でも各種事業が順次スタートし、堺市から長期派遣研修(国保連合会主催)へ参加することになりました。当時、保健師の間では、寝たきり高齢者の訪問に対しては看護技術を提供するイメージが強く、抵抗感が漂っていました。これは介護が必要な人に何を提供することができるのか等々、未知の分野で見通しの持てないことへの不安だったと思います。
研修では指定都市の保健所管内の家庭訪問も位置付けられました。訪問場面をすべて録音し、テープおこしをして「介護者の思い」を聴き取る作業を経験することで、自分の支援は目の前に起こっていることに注目し、そのことについて指導という手段を使って“支援しているつもり”になっていたことに気づかされました。

個別支援から地域課題の発見、解決へ

研修後に寝たきり高齢者宅を訪問し、介護者の思いや気持ちを聴き取ることを始め、介護者の方々は支援者に介護の結果を求めているのではなく、家庭という閉ざされた世界で孤独な自分を認め、愚痴や悩みに共感してくれることを求めているのだと分かりました。また、継続訪問の中で出てくる課題解決に向け、介護者やかかりつけ医、民生委員、他部署との協働や連携を経験し、当事者である介護者や先輩、同僚たちと「介護者家族の会」の結成をお手伝いすることができました。担当地区では所外リハビリの実施について自治会や校区福祉委員会の協力を得、ボランティアグループの育成にもつながっていきました。
困難を持った当事者に関わる中で、そこに行くまでの経過(家族関係、生活の場等の環境も含め)や思いを聴き取り、今どうしたいか、将来どうなればいいと思っているのかについて、当事者ができること、保健師としてできることを確認しながら、個別支援を重ねていきました。その中で、集団や地域の課題に気づき、「皆の問題」「地域の課題」「困ってんねん」を発信し、課題解決のためには住民や関係者の力を借りながら、仕組みづくりにつながっていくご近所の底力(住民力)に助けられました。このような経験が保健師としての自己肯定感を高め、担当地域への愛着を強め、保健師活動の醍醐味を感じ、今日につながっています。

領域を超えた公衆衛生看護の担い手として

今、地区担当の期間と同様、本庁勤務が19年となり俯瞰的な立場で保健師活動を見ています。行政機関の職員として日本国憲法第25条、地方公務員法30条にある活動すべき意味や責務を心に刻み、地方自治体職員というだけで住民からの信頼が得られ、私たちの発言に耳を傾けていただけていることを忘れず、本市で多くの先輩たちが築いた「家庭訪問」「協働」「自助・互助への視点」を用いて、地区分担や予防・保健活動にこだわり続けたいと思います。
福祉の仕事と保健の仕事の境界にこだわるのではなく、いずれの配属であっても公衆衛生看護の担い手である保健師の活動は【一人ひとりの住民を『この地区の生活者』として理解し、そこから地域の共通の健康課題を見出す。その課題を地域の伝統・文化・地域ルールから乖離せず、住民とのパートナーシップ・協働に価値を置きながら解決していく道筋を模索する】ことにあると思います。この手法やマインドを伝え続けたいていきます。
※【 】内の引用:地区活動のあり方とその推進体制に関する検討会報告書

(堺市健康福祉局健康部健康医療推進課参事)

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