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第十話:遊びという手仕事

子どもたちの手のひらが栄養失調になっていると感じ出したのは10年くらい前からだ。

ある幼稚園で「手探りゲ−ム」という簡単なおもちゃで遊んでみた。大きめの布袋の中に8種類の野菜を入れ、言われた野菜を手探りで見つけ出すといった単純な遊びだが、袋の中に入っているキュウリやナスを捜し出せない子どもが意外に多かった。

この子たちはキュウリを知らない訳はないと思って、スケッチブックにキュウリの絵を描いてもらったが、それはそれは見事に描くのである。つまり触ったことがなかったわけだ。もちろん見たことはある、食べたこともある、しかし、触れたことがなかったのだ。

手は「見える脳」とも言われている。手の働きが脳の働きを直接反映しているという意味だそうだ。手は一度にさまざまな刺激を受け取りながら、脳との複雑な連係プレ−によって動いている。片方の手には、ざっと2万個ものセンサ−が内蔵されており、これは身体中の皮膚の中でも一番多いものだそうだ。

手のひらが栄養失調になっているということ、つまりさまざまな素材を触らなくなっていることは、手のひらのセンサ−が宝の持ち腐れになっていることなのだ。

かつての子どもたちは、このセンサ−をフル稼働する遊びを毎日してきた。それが伝承遊びであり、手作りおもちゃであった。雨の日も家の中で退屈することなく楽しめたあやとりや折り紙。草花や小石も子どもたちにかかっては、すべて見事なおもちゃとなってしまう。

伝承遊びや、手作りおもちゃという言葉から連想できる光景は、今では懐かしいものになってきているが、高度経済成長が始まる前までの子どもたちは、伝承遊びや手作りおもちゃによってさまざまな刺激を手で受けてきた。

遊びは子どもたちの手によって作られ、遊びを通じて子どもたちは脳にカロリ−の高い栄養補給をしてきた。脳の活性化のために遊びを創造してきたとも言えよう。

子どもたちは、もうすでにおもちゃや遊びは「作るもの」ではなく、「買うもの」であると思いこんでいる。手は「見える脳」といわれながら、それに手袋をはめてしまったのが、現代の子どもたちなのではなかろうか。

遊びによって体験できるワクワク・ドキドキは、やはり「手作り」で、手をフル稼働して獲得してもらいたい。大人がそのサポ−タ−をやるべき時代になったのではなかろうか。

これまで10回にわたり、おもちゃや遊びを中心に、赤ちゃんや子ども達の感覚育成から異年齢交流、地域や福祉交流を提案してきた。「お!これは!」と思われた方は、是非おもちゃ美術館を覗いていただきたい。そして保健活動のヒントにしていただければ幸いです。

ありがとうございました。


多田千尋
多田千尋

芸術教育研究所所長、東京おもちゃ美術館館長、高齢者アクティビティ開発センター代表 NPO法人日本グッド・トイ委員会理事長。

1961年、東京都生まれ。明治大学法学部卒業後、モスクワ大学系属プーシキン大学に留学。現在、全国3000人を越える玩具の専門家「おもちゃコン サルタント」の養成と、高齢者福祉のQOLの向上を唱えた「アクティビティディレクター」の資格認定制をスタート。専門はアクティビティケア論、福祉文化論、世代間交流論で、早稲田大学など多くの大学で教鞭をとる。

4月には、新宿区と文化協定を結び、東京の四谷で閉校となった小学校に「東京おもちゃ美術館」を開設。中野には、遊びとアートのラボラトリー「アート・ラボ」を開設し、子どもアートスクール、子育て学校、街中子育てサロン、おもちゃショップなどを展開する。

・芸術教育研究所
・東京おもちゃ美術館
・高齢者アクティビティ開発センター



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